文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

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ティンパーリは、本当に国民党宣伝部の「情報工作員」だったのか?もし、「工作員」だったとすれば、いつから、工作員になったのか?ー櫻井よしこにおける「ネット右翼」の研究(10)。

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北村稔は、証拠不十分にもかかわらず、ティンパーリが、国民党政府に雇われた「情報工作員」だったと断言し、すべてをその前提に基づいて推測・判断している。歴史家にあるまじき資料や文献の処理に関わる批判的思考力の欠如である。つまり、北村は、二次資料でしかない『曾虚白自伝』の文章だけを根拠に、「ティンパーリ=情報工作員」と断定する。ところが、『曾虚白自伝』の文章は、回想録であって、かなり自慢話が混じっているようなのだ。歴史研究者なら、即断を避け、『曾虚白自伝』それ自体の信憑性を疑うところだろう。しかし、北村は、『曾虚白自伝』の発見を「大発見」と騒ぎ立てるのだ。さらに、外野席で、北村に輪をかけて騒ぎ立てるのが櫻井よしこである。北村が 、『「南京事件」の探究―その実像をもとめて 』で主張する、「ティンパーリは、国民党の宣伝部工作員だった」という話の出所は、『曾虚白自伝』である。『曾虚白自伝』に、次のような文章がある。北村稔や、「北村説」を盲信する櫻井よしこらは、『曾虚白自伝』を決定的証拠と見なしている。

かくして我々は手始めに、金を使ってティンパーリー本人とティンパーリー経由でスマイスに依頼して、日本軍の南京大虐殺の目撃記録として二冊の本を書いてもらい、印刷して発行することを決定した。(『曾虚白自伝』)

(北村稔『「南京事件」の探求』p43より。)


北村稔も櫻井よしこも、曾虚白の『曾虚白自伝』の記述を、真実と見なしているが、反論や反証はないのか?実は、あるのだ。
たとえば、当時の国民党内部資料「中央宣伝部国際宣伝処二十七年度工作報告」(中国第二歴史トウ案館所蔵)には、次のように書かれている。

「われわれはティンパリー本人および彼を通じてスマイスの書いた二冊の日本軍の南京大虐殺目撃実録を買い取り、印刷出版した」
(「中央宣伝部国際宣伝処二十七年度工作報告」。中国第二歴史トウ案館所蔵)

これは、何を意味するか。『曾虚白自伝』に書かれていたことが、必ずしも、「100パーセント」正しいわけではないということだ。国民党政府は、ティンパーリやスマイスの本を買い取って、印刷出版したというのだ。曾虚白の言う、「金を使ってティンパーリー本人とティンパーリー経由でスマイスに依頼して、日本軍の南京大虐殺の目撃記録として二冊の本を書いてもらい・・・」という「情報工作員説」は、曾虚白の思い違いか誇大宣伝の可能性が高い、ということだ。少なくとも、北村稔や櫻井よしこのように、「国民党政府に雇われた工作員(スパイ)」という話を鵜呑みにし、信用するわけにはいかない。




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