文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

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二次資料『曾虚白自伝』は信用できるか?ー櫻井よしこにおける『ネット右翼』の研究(8)。

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北村稔は、何の疑問もなしに、『曾虚白自伝』の記述を鵜呑みにして、ティンパーリーやスマイス等の「南京事件報告」(『戦争とは何か』など)を、国民党政府の国際宣伝(スパイ)のための「インチキ文書」「捏造文書」と「推測」=「憶測」して論を立てているが、「歴史研究者」として大丈夫なのか?「反対の資料」はないのか?そもそも、曾虚白の『曾虚白自伝』は、国民党政府の「国際宣伝処処長」だったとはいえ、大分、時間を経過した後に、老人となった曾虚白が、若き日の記憶を思い出しながら、書いた回想録である。

「ティンパーリーとスマイスに宣伝刊行物の二冊の本を書いてもらった」
(『曾虚白自伝』)

この曾虚白の回想録『曾虚白自伝』に、「記憶違い」や「誇張」「記憶の修正」の可能性はないのか?曾虚白は、一時、台湾の「日本大使」(?)も勤めた人物らしいが、日本側への配慮はないのか?北村は、『曾虚白自伝』の記述を、全面的に信用し、それを前提に論を組み立てているが、「歴史研究者」とは、そんなにいい加減な態度でも勤まるもになのか?むしろ、たとえ真実の記録だったとしても、あらゆる可能性を考慮して、疑ってかかるのが「歴史研究者」ではないのか?ところで、『曾虚白自伝』の記述や、北村稔の 『南京事件」の探究―その実像をもとめて』 (文春新書)の記述に、大きな「間違い」、あるいは意図的な「嘘」「捏造」があることが判明している。まず、北村の 『「南京事件」の探究』の文章を、そのまま引用する。

曾虚白は、ティンパーリーとの接近について次のように言う。



「ティンパーリーは都合のよいことに、我々が上海で抗日国際宣伝を展開していた時に上海の『抗戦委員会』に参加していた三人の重要人物のうちの一人であった。オーストラリア人である。そういうわけで彼が 〔南京から〕上海に到着すると、我々は直ちに彼と連絡をとった。そして彼に香港から飛行機で漢口〔南京陥落直後の国民政府所在地〕に来てもらい、直接に会って全てを相談した。我々は秘密裏に長時間の協議を行い、国際宣伝処の初期の海外宣伝網計画を決定した。我々は目下の国際宣伝においては中国人は絶対に顔を出すべきではなく、我々の抗戦の真相と政策を理解する国際友人を捜して我々の代弁者になってもらわねばならないと決定した。ティンパーリーは理想的人選であった。かくして我々は手始めに、金を使ってティンパーリー本人とティンパーリー経由でスマイスに依頼して、日本軍の南京大虐殺の目撃記録として二冊の本を書いてもらい、印刷して発行することに決定した。〔中略〕このあとティンパーリーはそのとおりにやり、〔中略〕二つの書物は売れ行きのよい書物となり宣伝の目的を達した」。


引用文中に、ティンパーリーが日本軍占領直後の南京にいたと注を付したが、これは当時の日本外務省外交官補であった福田篤泰氏からの板倉由明氏による「聞き書き」に基づく(前出、板倉由明「南京大虐殺の真相<続>ティンパーリーの陰謀」)。

北村の文章の中央のやや長い部分が、『曾虚白自伝』からの引用である。北村は、この『曾虚白自伝』の文章を根拠に、ティンパーリ=国民党政府に雇われた工作員(スパイ)」説を主張する。むろん、櫻井よしこ百田尚樹のような軽薄な「ネット右翼文化人」は、何の疑問もなしに、北村説を盲信し、「南京大虐殺はなかった論」「南京事件はなかった論」、そして「ティンパーリ=国民党スパイ論」を、テレビや街頭演説で、自信満々に叫びたてるというわけだ。さて、北村は、『曾虚白自伝』の文章に「(南京から)」という一言を書き加えている。何故?ティンパーリが、日本軍による南京攻略後も南京にいたことを強調するためである。『曾虚白自伝』の「記憶違い」、あるいは意図的な「嘘」を隠蔽するためであろう。実は、ティンパーリは、南京にいなかったことが実証的に証明されている。北村は、「福田篤泰氏からの板倉由明氏による「聞き書き」」を根拠に、「ティンパーリは南京にいた」と主張しているが、間違いである。ティンパーリは、日本軍の攻撃が激しくなった時点で、上海へ移動している。知らないのは北村だけである。「歴史研究者」にあるまじき「無知」というしかない。馬鹿丸出しとは、こういうことを言うのだろう。北村稔は「歴史研究者」ではない。櫻井よしこ百田尚樹等と同様に、「ネット右翼」的な「保守=右翼政治運動家」であある。(続く)




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