◼小沢一郎と野田佳彦と消費税。
安倍政権においても消費税問題は、沖縄米軍基地問題と同じくらい重要な政治問題であろう。野田が、総理だった野田・民主党政権時代にも消費税問題が、最も大きな政治問題だった。その結果、消費税増税に頑強に反対した「小沢一郎グループ」は、消費税増税に闇雲に突き進む野田政権に反旗を翻し、民主党を離党した。そして 、民主党政権は崩壊し、小沢一郎も、実質的に政治生命を断たれたと言っていい。
言い換えれば、財務官僚が絵を描いた消費税増税プランとそのグループは、民主党政権潰しと小沢一郎潰しを目指す謀略グループだったということだ。野田は、自民党との連立まで考えていたのではないか?
今、野田が、突然、「野党再編」や「野党新党」を前に、必死で、それに水を差すように、「小沢一郎排除論」を主張するのは、瑣末な個人的な問題ではない。財務省主導の消費税増税という問題が、背景に隠されているのだ。言い換えれば、野田民主党と安倍自民党は、消費税増税という財務省路線ということで、同じ穴のムジナなのだ。
佐藤優対談全文の一部。「月刊日本」3月号掲載の「ニセモノばかりの保守論壇」です。「月刊日本」3月は、発売中。
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2016年はサウジアラビアとイランの国交断絶、北朝鮮の水爆実験発表など、きな臭い幕開けとなった。昨年同様イスラム国のテロも頻発しており、国際社会全体が混乱に陥っている。もちろん日本も例外ではない。沖縄の米軍基地問題や甘利大臣違法献金疑惑、軽井沢のスキーバス事故など、多くの不安定要素を抱えている。
混乱の原因はどこにあるのか、我々はこの混乱を乗り越えることができるのか。作家の佐藤優氏と哲学者の山崎行太郎氏に、SMAP分裂騒動から資本主義の行く末まで、縦横無尽に語っていただいた。◼「分裂の時代」がやってきた
山崎 僕は現在の世界は「分裂の時代」に突入したのではないかと考えています。国際社会を見回してみると、イスラム社会の分裂は食い止めようがない状況ですし、イギリスもスコットランド独立という形で分裂が進んでいます。ドイツも難民問題のために国論が二分しているし、中国も台湾の選挙によって「一つの中国」政策が成り立たなくなりつつあります。
これは日本にも言えることで、普天間基地問題をめぐって本土と沖縄の分裂はかなり深刻になっています。昨年末に行われた慰安婦問題に関する日韓合意によって保守論壇も分裂しましたし、蓮池透氏の暴露本『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)により拉致被害者家族も分裂気味です。さらに山口組も分裂したし、アイドルグループ「SMAP」まで分裂騒動を起こしました。これも単なる芸能界の内輪揉めといった話ではなくて、分裂の時代を象徴するものではないかと思います。
佐藤 御指摘の通りと思います。維新の党も分裂したし、民主党も分裂寸前ですよね。そうすると、少し時差をおいて自民党も分裂しますよ。今、分裂がトレンドになっているんですよ。核分裂と一緒で、分裂しやすい環境になりつつあるんでしょうね。
山崎 僕はこう思うんです。分裂騒動が起こるということは、組織内部に強大な力を持つ個人や集団が現れたということですよね。組織の中に強い者がいるというのは、その組織にとって決して悪いことではありません。彼らと論争などを重ねれば、組織自体も鍛えられるはずです。
だから、保守派がよく「国民全員が一致団結すれば日本は強くなる」みたいなことを言っているけど、間違いだと思いますね。それは組織と対立するような存在を許容できないということであり、むしろ組織が弱体化している証拠です。
佐藤 分裂を許容できるのは権力が強い証拠だというのは、その通りだと思います。その意味で言うと、日本が現在の沖縄の分離傾向を完全に力で抑え込んでいないのは、権力が強い証拠なのかもしれない。もう少し弱くなってくると、治安出動や沖縄県知事を逮捕するとかして、力で抑え込むかもしれない。あるいは、百田尚樹さんが言っているように「沖縄の二つの新聞は潰さなあかん」ということで、新聞法みたいなものを作って事後法を適用するかもしれない。国家が弱くなってくるとそういうやり方になるんでしょうね。
SMAPの分裂騒動にしても、事務所から出ていくことによってそれ以上の利益があると期待した人間がいたから起きたわけですが、ジャニーズ事務所が分裂騒動を許容できたのは彼らが強いからでしょうね。事務所がもっと弱ければ、何をされるかわからないということで、SMAPも出ていこうとはしなかったと思う。
山崎 その場合はそもそも分裂騒動は起こっていないですよね。
佐藤 それで今回の騒動を経てSMAPが分裂しなかったとすれば、ジャニーズ事務所はさらに強くなりますね。「お前ら坊主になれ」とか「24時間テレビで100キロマラソンだ」とか、そんな感じでちゃんと責任もとらせるでしょう。
◼桜井誠と加藤智大に通底するもの
山崎 僕が特に関心を持っているのは、日韓慰安婦合意によって保守派が分裂したことです。例えば、保守論壇で大きな影響力を持っている櫻井よしこさんは、かつては「河野談話を潰せ」とまで言っていました。ところが今回の合意については、河野談話と同じような内容なのに、「国際社会から高く評価されているから外交的には大成功だ」と評価しているんです。
それに対して、例えば「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の元会長の桜井誠さんは、ツイッター上でこの合意を厳しく批判しています。僕は桜井誠さんの排外主義には反対ですが、言動の一貫性という点について言えば、桜井誠さんの方が櫻井よしこさんより断然上だと思いますね。
佐藤 その通りだと思います。だから大いなる逆転現象なんだけれども、ネット右翼の方がテレビに出てくるような安倍応援団よりも本物だと思う。思想の覚悟というか、思想の本気度が全然違いますね。
山崎 櫻井よしこさんたちのような保守派は、勢力は大きいようだけど、思想的な中身は何もなくなってしまいましたね。
佐藤 一昔前の左翼論壇に似ていますよね。当時の左翼は数は多いんだけども、偽物集団になっていた。そこに江藤淳さんとかそういった人たちが匕首を突き付けたわけですが、一昔前と逆転してしまっていますね。
今の左翼論壇で凄い人と言えば、中島岳志さんですよ。中島さんは2008年に秋葉原で殺傷事件を起こした加藤智大について、『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』(朝日文庫)という本を書いているんです。中島さんは加藤智大が獄中で書いた本を読み込み、加藤の友人などにも徹底的に取材しています。
彼はこの本で、加藤智大の思想こそ本物の思想であるということで、加藤への親近感を包み隠さず書いています。ああいう人に親近感を覚えるということは、中島さんの中にもよく似た琴線があるということですよ。中島さんは保守論壇でも仕事をしているけど、実は彼の本質は加藤智大的なものなんだと思う。……
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