文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

曽野綾子は、何故、「曽根元一・朝鮮人軍夫逃亡事件」を、書かなかったのか? 曽根元一は、朝鮮人軍夫約20名、朝鮮人慰安婦数名を引き連れて、赤松部隊から逃亡し、米軍に投降した。これを知った赤松嘉次と赤松部隊の隊員たちが、ますます疑心暗鬼の狂乱状態に陥ったことは言うまでもない。曾野綾子は、何故、この事件を書かなかったのか?書くと「大変なこと」になると判断したからだ。ところで曽根元一とは誰か? 曽根は生きていたのか?「朝鮮人慰安婦問題」を追及・研究している川田文子が曽根元一を探し出して、インタビューを試みている。

dokuhebiniki2013-11-08





人気ブログランキングへにほんブログ村 政治ブロへ

(川田文子『赤瓦の家―朝鮮から来た従軍慰安婦筑摩書房より。この文章は、「美しい壷日記」http://dj19.blog86.fc2.com/blog-entry-169.htmlから引用したことをお断りしておく。)





一九四五年六月三十日、曾根という一等兵朝鮮人軍夫を連れて二三四高地を脱出、米軍に投降したという事件があった。第三戦隊の元将兵によれば、この時、慰安所の女も一緒だったという。第三戦隊の隊長であった赤松嘉次氏は次のように語った。
―――女の方は曾根一等兵と一緒、バラバラではとても複廓陣地(二三四高地)を出られません。友軍が陣地の周囲に歩哨(ほしょう)を置いているし、敵との間に距離がある。そこに地雷があるし、夜が明けると米軍にやられるから通れない。 
当時も今も阿波連(あはれん)に住んでおられ、現地召集された元防衛隊員の大城良平氏は、歩哨に立っていた兵隊から次のように聞いた。

―――その時に姿を見たという歩哨の兵隊によると、やっぱり女連中も鉄兜披って、軍服つけとった、となるがね。

キクマルとスズランは、同胞の軍夫らとともに米軍に投降したようだ。この一団を率いたといわれている曾根一等兵は、赤松元戦隊長によると四国・松山の披差別部落出身で、現地自活班に組込まれていたという。
―――牛なんか殺してうまく料理してくれましたよ。その関係で現地自活班に入っていました。西山(二三四高地)に本部を置いた時、阿波連では自活班が倒れた家の下から塩干とか、いろんな食べ物を掘り出したり、豚とか山羊をとって軍夫が夜運んでくる。それをうまい具合にさばいていました。

現地自活班は主として地元出身の防衛隊員や朝鮮人軍夫で構成されていた。阿波連の現地自活班で炊事班長をしていた大城元防衛隊員は、軍夫逃亡事件の概要を次のように語った。

―――曽根という男は俺のう所から逃げた。(中略)軍夫は炊事班に五名はおった。私が炊事班長を務めて、この方たちを使って炊事をやらした。この方たちも皆、曾根がひっぱって逃げた。

大城元防衛隊員の証言から、曾根一等兵が軍夫らと綿密に連絡をとった上での逃亡実行であっただろうことがうかがえる。知念朝睦(ちょうぼく)元副官も同様に指摘した。

―――軍夫、朝鮮の方たち、あのときいっせいにいなくなりました。(中略)曾根一等兵朝鮮語うまかったんじゃないですか。

曽野綾子は、赤松嘉次第三戦隊帳からも赤松部隊の隊員からも、朝鮮人軍夫の話は聞けなかったと『ある神話の背景』に書いているが、嘘である。聞いたが書けなかったというのが現実である。赤松嘉次も赤松部隊の隊員たちも、川田文子のインタビューには、朝鮮人軍夫と朝鮮人慰安婦について語っている。特に、私は、「知念朝睦」という人に興味がある。この人は、赤松部隊で、唯一の沖縄出身の将校ということで、重要な役割を演じており、それ故に重要な証言も行っている。伊江島の女の首を最後に刎ねたのもこの男である。さて、曽野綾子がもっとも会いたい人だと言っただけで、決して会うことのなかった曽根元一に、川田文子は、住所を探し当てて、会いに行くのだ。

私は曾根一等兵に会いたいと思った。曾根一等兵に会えば、キクマルとスズランの戦後の動向までは分からないにしても、渡嘉敷島からの脱出が無事に果たされたか否か分かるはずだ。(中略)曾根一等兵に関しては、実は数年前一度、(厚生省に)本籍調査を依頼したことがある。(中略)本来の目的を曖昧にしたのがいけなかったのだろう。二、三回の電話の対応で断られた。その後、私は出産で身動きとれなくなり、曾根一等兵に会わずにいることが気がかりになりながら原稿を書き進めていた。(中略)改めて厚生省にダイヤルを回し、取材を告げた。(中略)曾根一等兵の名前が見つけ出された。私の胸は高ぶった。数年来、気になりながら出会えずにいた人が、遠い距離を隔ててはいるが、受話器の向こうにいる。

以下は、インタビューの内容である。

「何でもお話ししますよ。今でも私は自分のしたことが間違いであったとは思わないし、何ら後めたいところもありません」きっぱりとした口調であった。「今でも残念でならないのは、日本の兵隊を一人も連れて来れなかったことです。あの後、戦友が何人も死んでいます。なぜ、あの時、誘い出せなかったのか……」

(中略)曾根氏は松山の出身ではなかった。松山の近くの土居町が本籍地で、現在もそこに住んでおられる。初夏、私は二歳の娘を連れて、教えられた予讃本線の伊予土居に向かった。(中略)曾根氏は農家の次男として愛媛県土居町に生まれ育った。(中略)二十歳の時、神戸に出、ダンロップ工場に勤めた。(中略)その後、小倉に移り、妻を娶(めと)って食料品販売業を営んでいたが、戦況が悪化したため、一九四四年四月、土居町へ家族を連れて帰ってきた。召集令状が届いたのは、そのわずか二か月後の六月である。もうすでに三十代半ば。十歳になる長女を頭に三人の娘がいた。家族を残して、身を切られるような出征であった。

そして、九月、第三港設隊(海上挺進基地第三大隊)として編成され、宇品を出発した。(中略)それでも、渡嘉敷島に到着した当初は、基地隊の将兵誰もが、沖縄は敗けない、敗けられるものか、と思っていた。沖縄が陥されれば南方への交通は遮断されてしまう。ここはどうしても死守しなければ、と曾根氏自身も思っていた。(中略)

―――沖縄が占領されるようになって、これはあかんと思いましたね。海に浮いているのはみな敵の軍艦、空飛ぶのは全部敵の飛行機。(中略)本当に今日、よう生きのびた。生命がようあったなと思うことが何度もありましたからね。迫撃砲何度もくぐってね。(中略)

もはや、二三四高地で生存も危ういほどの飢餓に耐え、砲弾の下をかいくぐって任務を遂行することに何の意味も見出せなかった。犬死にしたくはなかった。今、米軍に投降すれば生命を落さずにすむ。戦友にもそう呼びかけたかった。だが、徹底した皇国思想、軍国教育を叩き込まれている日本兵に米軍への投降を呼びかけるのは危険だった。この期に及んで、未だに神国日本は必ず勝つ、と狂信している者も少なくなく、客観的な見通しをおくびに出すことさえはばかられた。実際、誰れが密告したのか、中隊長に呼び出されて、「貴様、悲観論を吹聴しとるというではないか」と、鼻先に軍刀をつきつけられたこともあった。日本兵には明かせない。けれど、なるべく多くの者と、ともに生きたかった。

―――一人では、わが身一人だけでは助かろうとは思いませんでした。
 
曾根氏は朝鮮人軍夫に呼びかけた。

―――私の判断では、朝鮮の軍夫は戦陣訓叩き込まれたわけではない。皇国思想も持っていない。徴用にかけられて来たのばかりだから、軍に忠誠誓うとか、天皇陛下の御(おん)ために生命を捨てるというような者はいない。軍夫でも皆、人の父であり、息子であり、夫であるんだから、一人でも多くと思ったが、それはできんかった。あまりに危険じゃから。これがバレたら当然銃殺。敵前逃亡なら、捕らえられたその場で殺されます。そのことを充分覚悟しとかなきゃいかん。
 
曾根氏は日本の敗戦が遠いものではないことを予感してはいたが、六月二十三日の沖縄守備軍第三二軍の崩壊は知らなかった。第三戦隊では二十二日、無線機で本島の軍司令部から発せられた「最後の斬込みを敢行す」の電報を傍受していたのだが、その報は幹部で握りつぶされ、下級兵士には伝達されなかったのである。

大城、知念両氏は、曾根一等兵は軍夫と綿密な連絡をとった上で行動に移っただろう、とみていた。しかし、実際はそうではなかった。

―――前に打合せしとったら。危険、兵隊の中にもちょっとでも敗ける言うたら反感持って、反発してくるのがいるんですから。何日も前から計画を明かしたらいつばれるか分らん。発覚したら終り。どうすべきか思案しまして、思い悩んでこの方法しかないと……。

その日、曾根氏は阿波連の現地自活班から二三四高地の部隊本部へ食糧を運搬する任務についていた。大城氏のいうように、自ら願い出て危険の多いその任務についたのではない。上官の命令に従ったまでのことだ。また、赤松氏のいうように、現地自活班に組み込まれていたのではなく、三中隊に所属しており、寝起きする壕も本部の南の三中隊にあった。

六月二十九日夜、曾根氏は芋や芋の葉の入った袋を背にした軍夫らを率いて阿波連を発った。一キロほど行くと、渡嘉志久(とかしく)の浜が見える峠にさしかかる。「決行は今夜だ」そう決意したのは、暗がりの中で鈍くたゆたう海を峠から見下ろした時だ。渡嘉志久の浜まで降りれば目と鼻の先に米軍がいるはずだ。だが、命令通り糧秣(りょうまつ)を本部まで運ばなければ怪しまれる。本部へ糧秣を届けてから陣地を出、あの浜に降りよう。夜目にもそれと分る小さな入江を見やりながら、曾根氏は想いを巡らせた。闇の中を手探りで山道を登り、本部に辿り着いたのは真夜中だった。

曽根元一は、朝鮮人軍夫約29名、朝鮮人慰安婦2,3名とともに、いよいよ、「逃亡・投降」を決行する。

まず、軍夫長フクダに決行を打明けた。そして、軍夫たちへの呼びかけを依頼した。曾根氏は朝鮮語がまったく分らなかったし、軍夫も日本語が通じる者はごく少数だった。また、軍夫個々の気性も、どのような考えを持っているのかも、知らなかった。あまりつき合いのない曾根氏が直接呼びかけたのでは軍夫はかえって警戒する。時間もなかった。まごまごしていて日本兵に察知されれば生命はあるまい。そこで手っ取り早くフクダに軍夫たちへの呼びかけを依頼したのだ。フクダとは肝胆相照らす間柄というわけではなかったが、以前からつき合いはあった。そして、その日、同じ糧秣運搬の任務を負い、曾根氏の指揮下にあった。フクダは朝鮮人であったが、日本語が堪能だったため軍夫長に選ばれていたのだ。

フクダが自分の配下十数名を連れて来るまで三十分もあったかどうか。その中に女が混っていた。いつの頃であったか、慰安所の親方(カネコ)が第三戦隊に泣きついてきて、女たちともども部隊本部に潜り込んでいたから、慰安所の女であろう、と曾根氏は思った。(中略)どのように調達してきたのか、女たちは軍夫用の軍服、軍帽を身につけていた。

―――慰安婦は私が待っておったところに来て、軍夫長が「一緒に連れて行ってくれ」いいよりました。私はいかん、とも、連れて行くともいわんけど……。それで、軍夫長が一緒について来い、いうてね。

女が二名だったのか、三名だったのか、記憶はない。そのうちの一人であるフクマルとかいう女(キクマルのこと)が軍夫長と交渉があったのだろうと思った。

一行は糧秣を本部まで運んで来た空袋を背にし、再び阿波連(あはれん)まで糧秣運搬に行く途中であるように装った。

―――軍夫を連れたり女なんか連れたりして行きよるところを、二中隊、一中隊の前を通って調べられたりしたら危険。しかし他は心配はない。私も軍夫については責任を持っておったんで、武装しておりましたから。手榴弾と十二発実弾をつめておるのを持って行きよりましたから……。

(中略)軍夫長と軍夫だけでは歩哨線は通過できないが、日本兵である曾根氏が引率していたため、歩哨は何の疑念も抱かなかった。一行は難なく監視哨を通過した。その後も追手は来なかった。本部ではまだ、曾根氏と軍夫らの逃亡には気づいてはいなかったのである。(中略)渡嘉志久の浜に着いた時、空は白み始めていた。

―――敵の真ん前に来てるんじゃから、前へ行って撃たれたらいかん。なんとか降服するという印、白旗揚げにゃいかん。「誰ぞ白いきれ持ってないか」いうたら女の人が、慰安婦が持っとったんじゃろ思う。それを棒の先くくって、そして、海岸で振って。そしたら敵の前じゃにね、軍艦から見たんでしょ。上陸用舟艇で、すーっとやって来た。渡嘉志久の海岸の前側で止まって、こっちは下から降服の意志を表示した。「武器出せ」言うて、銃もとりあげられて、何もかも調べられて、向こうも危険はないとみたんでしょ。「これに乗れ」言うて。米軍が上陸用舟艇つけてくれた時は、まあ、ほっとしました。これで助かった、と。

曾根氏が率いた一行、軍夫長と軍夫約二十名、それに慰安所にいた女は、米軍の上陸用舟艇に無事乗船した。

(続く)


人気ブログランキングへ


■■■■■■■■■■■■■■■■
ーーーーーーーーーーーーー
保守論壇亡国論』発売中!!!
ーーーーーーーーーーーーー
毎日新聞」「日刊ゲンダイ」「週刊ダイヤモンド」「サンデー毎日」・・・に紹介される!!!
話題騒然!!!増刷!!!
ーーーーーーーーーーーーー
Amazon」、「楽天ブックス」ともに売り切れ=在庫不足でしたが、10/25、増刷完了。在庫不足は解消されました。Amazonなどのネット販売をご利用ください。
↓↓↓
Amazon
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4906674526?ie=UTF8&at=&force-full-site=1&lc
■ヨドバシ・COM
http://www.yodobashi.com/%E4%BF%9D%E5%AE%88%E8%AB%96%E5%A3%87%E4%BA%A1%E5%9B%BD%E8%AB%96-%E5%8D%98%E8%A1%8C%E6%9C%AC/pd/100000009001943695/
楽天ブックス
★http://books.rakuten.co.jp/rb/保守論壇亡国論-山崎行太郎-9784906674527/item/12469849/★
■■■■■■■■■■■■■■■■

人気ブログランキングへにほんブログ村 政治ブロへ (続きは、『思想家・山崎行太郎のすべて』が分かる!!!有料メールマガジン『週刊・山崎行太郎』(月500円)でお読みください。登録はコチラから→http://www.mag2.com/m/0001151310.html