文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

渡部昇一・竹中平蔵対談「霞ヶ関『ナチス』化への暴走」(『ボイス』2008/8)を読む。

渡部昇一氏が、『ボイス』(2008/8)で、トンデモ経済学者として世間の指弾を浴びている竹中平蔵氏と対談しているが、予想通り、二人は意気投合しており、二人が普段から何を考えているかがよく分かるという意味で、なかなかいいコンビの対談であると思う。渡部昇一氏は、冒頭で、こう言っている。

いま世間では「最近、ここまで不景気やリストラが吹きあれているのは、みんな小泉・竹中改革が悪かったからだ」などとささやかれています。しかし、世界中が不況という状況を見ていると、何でもかんでも小泉・竹中改革のせいにするのは、いくらなんでも無理がありますね。(笑)(中略)日本の゛すからね。景気だけが悪くなったのならば、日本の政策が悪かったといえるかもしれませんが、世界中で同時に景気が悪くなったのですからね。

渡部昇一氏の分析は、なかなか分かりやすい論理だが、ここには根本的な論点のすり替えがある。「小泉・竹中構造改革」が原因の「不景気やリストラ」は、昨年のアメリカの金融危機に始まる世界不況とは、そもそも関係ない。。むろん、「小泉・竹中構造改革」が、昨年のアメリカの金融危機をもたらしたわけでもない。昨年のアメリカの金融危機が、「小泉・竹中構造改革」に酔っていた大衆までが分かるように、それ以前から始まっていた「小泉・竹中構造改革」がもたらした悲惨な実態を赤裸々に暴き出したというだけのことである。竹中平蔵氏等が推奨し、小泉純一郎元総理らが、追従したアメリカ発の新自由主義経済学の実態が、アメリカの金融危機と、それに続く世界不況で明らかになったということに過ぎない。渡部昇一氏は、例によって誰にも見破られるような幼稚な詭弁を弄しているにすぎないい。それに対して竹中平蔵は、こう言っている。

いまの経済状況の分析について、皆ムードだけで議論しているように思います。(中略)では、いったい何が起こってたのか。たしかにアメリカでは不動産バブルが起きていました。そして同様にヨーロッパもユーロ高で不動産バブルになっており、・・・・(中略)そして日本でも、考えてみたらバブル状態でした。円安バブ ルです。輸出産業は円が安すぎたことによって利益が水ぶくれして、水ぶくれした利益によって日本が支えられていた。いうなえば、いま起こっていることは、世界的規模におけるバブル同時崩壊なのです。そういう事実認識に基づいていいえば、小泉改革によって日本が悪くなったというのはありえないんです(笑)。

竹中平蔵氏が渡部昇一氏以上に「詭弁の達人」であることは承知しているが、竹中氏がここまで、露骨に、ミエミエの「詭弁を弄する」のを見ていると、さすがに、「お前は、何処まで、詐欺師なのだ?」とでも言いたくなるわけだが、ちょっとここで解説すると、竹中氏が言っていることは、アメリカのサブプライムローン破綻に始まる「世界同時不況」の話であって、いわゆる竹中平蔵氏等が先導してきた「小泉改革」なるものとその悲惨な結末とは、直接には何の関係もない話だということである。このことを理解できない日本人が何人いると、竹中氏は思っているのだろうか。おそらく、アメリカのサブプライムローン破綻に始まる「世界同時不況」の話と、竹中平蔵氏等が先導してきた「小泉改革」なるものとその悲惨な結末の話とを混同する日本人は、渡部昇一氏と竹中平蔵氏の二人ぐらいだろうと思う。要するに、今、「小泉・竹中構造改革」の政治責任が厳しく問われているのは、「郵政民営化」や「道路公団改革」、そして「緊縮財政」「小さな政府」…というような竹中平蔵氏等が主導してきた「構造改革」の成否なのである。アメリカのサブプライムローン破綻に始まる「世界同時不況」の原因などを問うているわけではない。繰り返すが、「世界同時不況」の原因が「小泉・竹中構造改革」にあるなどと、言っている訳ではない。ところで、渡部昇一氏は、ここでも「昭和史」の話を持ち出しているので、見てみよう。

歴史を見てみると、不況になった際に、その原因を捉えそこなうと、大変なことになってしまうんですね。大恐慌の後も、「あれはホーリー・ストーム法のような保護主義が悪い」と原因を喝破できればよかったのですが、そうではなくて「金持ちがけしからん」「マルクスのいったとは本当だ」という意見が勝って、社会主義的な勢いが強くなり、世界中が国家統制への動きが加速していきました。当時、ソ連共産主義で大粛清の真っ最中むでしたし、ドイツで台頭したナチスもまさに「国家社会主義労働者党」だった。日本でも、5・15事件にせよ2・26事件にせよ、それを起こした連中の考え方は「社会主義」でした。彼らの考え方は、「天皇陛下は自分たちが担いで、上流階級をやっつけろ。資本主義も何も要らない」というものでした。これが、結局日本を戦争に引き込みました。当時の経済学者が「悪いのは保護主義だ」という世論をつくっていれば、要人を暗殺するような事件は起こらなかったと思うのです。

渡部昇一氏が、いつも何を考えているかは、この会話から、一目瞭然だが、それは「国家統制=悪」「自由放任=善」という単純な二元論である。それが、渡部昇一氏の「共産主義」や「社会主義」への恐怖に満ちた嫌悪へとつながっている。したがって、たとえば「国家」が経済に口出しをし、管理や規制、保護を強めることを、「悪」として退け、ひたすら「自由」であることが、素朴に肯定されていることが分かる。しかし、「自由」を維持し守るためにも「国家」の管理や規制や保護は必要なのだが、そうした「自由主義」を守るための「国家統制」には関心はないらしいのが、不思議なところである。「小泉・竹中構造改革」は、市場原理主義という自由主義を実現するために、国家権力という様々な暴力装置を発動して、強引に日本の社会構造を解体し、崩壊させていったわけだが、その場合の「国家暴力」は、放置していいものらしい。ところで、渡部昇一氏が信奉するハイエク教授は、共産主義社会主義と同様に、自由を抑圧する経済学として「ケインズ経済学」を厳しく批判し続けた人だが、渡部昇一氏もまた、「ケインズ経済学」の批判者なのだろうか。それならば、「共産主義」や「社会主義」「ナチス」「5・15事件や2・26事件の首謀者」と並べて、「ケインズ経済学」も、一緒に批判してもらいたい。そうすれば、渡部昇一氏の思考が、さらに明確になるはずである。つまり渡部昇一氏の思考は、単なる素朴な自由主義自由貿易主義、市場原理主義、言い換えれば、素朴な古典派経済学の焼き直し、あるいは大正教養主義劣化コピー…に過ぎないということが、誰の目にも明らかになるはずである。渡部昇一氏が、今になって、竹中平蔵氏と意気投合した上で、「小泉・竹中構造改革」なるものを必死で擁護しなければならない理由が分かろうというものだ。渡部昇一氏も、これ以上、耄碌したトンチンカン発言を繰り返す前に、竹中平蔵氏や小泉純一郎氏にならって、そろそろ退場なさった方がいいのではないのか。しかし、それにしても、こんな渡部昇一氏が、昨今は、「保守論壇の重鎮」だというのだから…。
(続く)




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