文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

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小泉改革と秋葉原事件は無縁か?

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小泉元総理が政権を担当した時代の五年間に何が起こり、何が起こらなかったのか、あるいは小泉政権は五年間の間に何をやり、何をやらなかったのか……の実証的検証は、まだ当分、われわれには無理なのかもしれない。何故なら、余りにも身近であり、それが明確には見えるようになるまでにはまだ時間がたりないからであって、つまり、まだ小泉政権の当事者や関係者や、あるいは付和雷同した小泉改革マンセーの一般大衆組が多数存在し、彼等がさかんに政治宣伝と情報工作の最中にあり、したがって依然として小泉政権の検証作業は情報コントロールの渦中にあると思われるからで、しかるが故に、僕は、秋葉原事件の根本原因が何処にあるかを議論する前に、この事件は、小泉政権五年間の内実を検討するよい機会になったという意味で、被害者達には気の毒だが、歴史的に、そして政治思想的にとても意義のある事件だったと言っていいだろうと考える。繰り返すが、加藤某の犯した犯罪は犯罪であり、法的に、あるいは道義的に裁かれるべきだろうし、当然そうするべきだろうが、僕は、そちらの方にはあまり関心はなく、そういう方面の問題は、関心のある人がすでに各方面で精力的に論じているだろうから、そちらにまかせればいいだろうと思うのだが、そうとばかりは言っていられないことも確かであって、それらが秋葉原事件を政治問題化、社会問題化することの防御装置として機能している以上、無視するわけにはいかないだろう。ところでこういう大事件が起きた場合、こういう種類の犯罪をあくまでも犯人個人や犯人の家族内部の個人的、個別的、特殊な問題として、つまり一般大衆とは無縁な、「対岸の火事」的な問題に封じ込めようとする動きと、逆にこのような事件を、短絡的に政治問題や社会問題に結び付けようとする動きとに大きく二つに分かれるのが定式だが、僕は、今や、いずれの議論の進め方にも無理があるだろうと思う。したがって僕は、この事件を大真面目に小泉政権の五年間と直結して論じるというよりは、この事件を契機にして、つまりあくまでも事件はきっかけの問題として小泉政権五年間の内実を論じるという、つまりこの秋葉原事件をダシにして小泉政権五年間の「政治」を再検討する第三の道を選択していくことにする。ところで、犯罪者というものは、やはり時代を越えると同時に、ヘーゲル的な典型的「時代の子」でもある。確かに犯罪者は例外的存在である。それを、いわゆる一般大衆である我々自身の問題に拡大解釈はできない。しかし、カール・シュミットも言うように、明らかに異常な「例外的存在」であるからこそ、逆に、犯罪者は、その時代の本質を、つまり一般大衆が自覚することが出来ず、またそれ故に抉り出すことも出来ず、対抗手段を実行することもできない、様々な時代の病巣を、無意識のうちにその行動において体現しているとも言えるのである。ドストエフスキー三島由紀夫大江健三郎のような天才的な文学者たちが、好んで犯罪や犯罪者を小説の題材として、またテーマとして取り上げるのは、そこに理由がある。彼等文学者たちは、ある意味では、誤解を恐れずに言えば、犯罪や犯罪者を尊敬し畏怖していると言っていい。つまり、「例外こそが、もっともその時代の本質をあらわに露呈している……」のであるという意味で、秋葉原事件も論じるに値する事件だと見ていい。加藤某は、彼自身も気付かないうちに、何かを、成し遂げてしまったのである。犯罪者を、政治家や良心的な御用文化人のように、法的に、あるいは社会的に排除し、抹殺し、忘却すれば、それで表面的には事件は解決するかもしれないが、本来的な意味で事件が解決しないことは、我々自身が、一番よく知っているだろう。さて、小泉政権五年間の成果は、「派遣」という言葉に象徴されているのではないかと僕は考える。僕は、秋葉原事件や、その前に起きたマンション隣人殺人事件の犯人が、ともに「派遣社員」だったという事実に注目すべきだろうと思う。小泉政権五年間のあいだに小泉改革の名の元になされた改革で、「正社員」がどれだけリストラされ、また「派遣社員」がどれだけ増えたかを知らないが、また知ろうとも思わないが、いずれにしろ間違いなくこの「正社員」激減から「派遣社員」倍増への流れは、良いか悪いかは別にして、小泉改革の産物であり、小泉改革の成果である。そして小泉改革を継承したと言っていい自民党安倍内閣福田内閣の産物であり、成果である。つまり2006年11月に、経済財政諮問会議が「労働ビッグバン」を打ち出し、2007年の通常国会には労働関係6法案が提出されたのが、それである。ここに、正規社員(正社員)主体からから不正規社員(派遣社員)主体へ、そして正規社員(正社員)も労働条件は限りなくの不正規社員(派遣社員)レベルへ格下げされるという労働条件、ないしは労働環境の大きな変動が、世に言う「小泉・竹中改革」という美名の下に合法化されていくのである。加藤某や○○某等が、この労働条件と労働環境の悪化の中で、人生を翻弄されたことは、まず間違いないだろう。ところで、このブログのコメント欄に、次のようなコメントがあったので、ここにも紹介しておこうと思う。

阪神
2008/06/12 13:31
こんにちは。私は11年前、秋葉原事件の容疑者が派遣登録していた日研総業の兄弟会社であるA社に採用され、トヨタ系の自動車企業で仕事をしておりました。採用後2ヶ月以内に「こんな仕事内容とは聞いていない!」と言った理由で10数人の同僚が逃亡!するなど、それは酷い情況でした。歳月は流れ、ビックプロジェクトが終了となり派遣されていたA社の私達はお払い箱になりました。私は仕方なく今の仕事に就きました。しかしながら10代の頃に描いていた将来像とはかけ離れたうらぶれた自分であります。今は正社員ではありますが、規制緩和で大打撃を受け、仕事が厳しくなる一方であります。職場ではルサンチマンが渦巻く情況であり、鬱屈した精神状態になりニュースになるような事件を起こす者などもいました。先生が「あの青年の怒りと絶望を心の奥深くで、つまり無意識の領域で共有していると思う。」と言われましたが、確かに共有しております。加藤容疑者辿ってきた経歴や置かれた情況が私とオーバーラップする部分が多い事もあり、とても考えさせられる事件ですね。

僕には、答えるべき言葉はないが、いずれにしろ、「阪神」氏によると、すでにトヨタ、およびトヨタの関連会社では、派遣社員が常識化し、11年も前から労働条件や労働環境は変わりつつあったのであろう。いや、すでに変わっていたのかもしれない。そしておそらく、それを、公然と合法化していくのが、小泉改革というものだったのだろう。ここで、「トヨタ」という名前が出ていることに、注目してもらいたい。トヨタ……。実は小泉改革を推進した一方の旗頭が、トヨタ奥田碩会長、つまり当時の経団連会長だったということは、誰でも知っていることだろう。むろん、加藤某が、派遣社員として送り込まれていた会社「関東自動車」も、トヨタの関連会社であった。(続く)

●参考ブログ http://d.hatena.ne.jp/boiledema/20080610#1213114352



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