文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

何故、「大江裁判」は大江健三郎側の全面勝利に終わったのか……。

左右論壇が、思想的な左右対決の決戦場として注目していた、いわゆる「大江裁判」とも言われる「沖縄集団自決裁判」で、その判決が、一昨日、大阪地裁で言い渡され、大江・岩波サイドの「全面勝利」に終わったようだが、予想通りと言おうか、当然と言えば当然と言おうか、なるべくしなった判決であり、それを早くから予告し、保守論壇サイドの思考力不足と勉強不足という思想的劣化を警告・告発し続けて来た僕自身としても、その判決内容には別に何の感想もないわけで、完敗したはずの保守論壇サイドが、異様に興奮して、今回の判決を「不当判決」だと位置づけた上で、早々の「控訴決定」を記者会見で大真面目な顔をして報告しているニュース映像を見ながら、「まだ分かっていないようだなあ」と思っただけだ。昨日は、都内某所で、原告の一人・梅澤裕や、「マンガ保守」と並んで、昨今の保守論壇界隈に徘徊し、保守思想の劣化に貢献する「おばさん保守」の筆頭格…櫻井よし子等も集結して、裁判の報告会と今後の裁判闘争へ向けての決起集会のようなものが開かれたらしいが、そんなことをやればやるだけ恥の上塗りになるだけで、要するに、保守派の面々によって、大江健三郎岩波書店の権威失墜をねらって仕掛けられたと思われる今回の「集団自決裁判」で、その裁判の根拠になっているはずの曽野綾子の「ある神話の背景」も大江健三郎ヒロシマ・ノート」もまともに読んでいないという悲惨な現実が暴露されてしまった以上、今や裁判継続の意義すら怪しくなっているはずで、今後、裁判闘争というような集団主義的な思想運動を繰り返せば繰り返すだけ、保守思想や保守論壇の劣化現象はさらに顕著になっていくことだろう。ところで、話は変わるが、「新証言者、現わる!!!」ということで保守論壇界隈で大騒ぎになっている「宮平秀幸証言」に関して、母親の証言との矛盾に続いて、2002年頃に撮影・収録された「ビデオ証言」という、更なる怪しい前歴が明らかになり、またまた証言内容の矛盾が指摘されているが、今度は、相手は母親でも姉でもなく、まさしく自分自身なわけで、「あいつは嘘つきだ!」等と言って、言い訳することはできまい。それともまた「追加証言」という恥の上塗りでもやるつもりか。さて、また話は変わるが、例の小林よしのりの件だが、小林が編集する「わしズム」なる雑誌を、先日、本屋で見つけたので、読んでみたわけだが、そこで展開されている…「沖縄のマスコミは、中国やロシアのマスコミ、あるいは戦前の軍国主義のマスコミと同質で、沖縄は全体主義の島だ……」「閉ざされた言論の島……」「沖縄左翼が言うように、集団自決が『軍命』なら、ひめゆり学徒も鉄血勤皇隊も『軍命』のせいで、嫌々ながら戦ったことになってしまう……」というような、いかにも「マンガ保守」らしい粗雑な思考展開の稚拙な沖縄論に遭遇し、その論理破綻と思想的レベルの低さには、改めて愕然とさせられた。ちなみに、同誌では文藝評論家の富岡幸一郎までもが、「大江裁判」に言及しているが、これまた勉強不足は明らかで、「曽野綾子誤字誤読事件」を前提にした上で、保守論壇周辺に定説的常識として蔓延しているガセネタ情報の「受け売り」に終始していると言っていい。富岡が、今回の「集団自決裁判」で、その裁判の根拠になっている曽野綾子の「ある神話の背景」や大江健三郎ヒロシマ・ノート」等の基本文献すら読まずに、つまり図式的な政治的な左右対立が隠蔽した微細な差異に注目することなく、保守論壇的な左右対立という安直で、わかりやすいイデオロギー的な思考図式に乗っかかって、「大江裁判」に言及しようとしていることも、ほぼ、明らかである。富岡は、こう書いている、「……裁判の結果がいかなるものとなるかはわからないが、少なくとも作家自身がこの裁判と自著について書いた文章(「定義集」2007年11月20日朝日新聞)」などを読むかぎり、作家自身がかつて書き記した自身の言葉に解釈の迷路をはりめぐらし、論点をすり替えていると見られても仕方がないのである。」……この文章が、「罪の巨塊」を「罪の巨魁」と誤読し、誤記した曽野綾子の致命的な失態を無視し、あるいは未だに理解できないままに、大江証言を「論点のすり替え」「言い逃れ」と批判・罵倒して無知無学を晒しまくっている、保守論壇や保守派メディアに蔓延している秦郁彦等の文章と同じ論理構造であることは間違いない。富岡が援用する、政治的なプロパガンダを優先し、「多数の名において、個人の自由な肉声を奪おうとしている」という江藤淳の指摘と批判は、今や、まさにこういうような、保守論壇に蔓延しているデマコギ−的言葉にこそ、ふさわしいのではないのか?(続く)にほんブログ村 政治ブログへ