文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

アエラよ、お前もか……。「アエラ」と「諸君!」はグルだった……という世にも不思議な物語。


朝日新聞社発行の「アエラ」に、いわゆる「軍命令はなかった……」派の頭目の一人、秦郁彦等の主張を全面的に取り入れ、好意的に論じた「沖縄集団自決を現場検証する」という記事が掲載され、一部の保守論壇で話題になっているという話と、「諸君!」に「目撃証言『住民よ、自決するな』と隊長は厳命した」」という「新しい証言者現る」的な記事が掲載され、これまた一部の保守論壇で話題になっている話を紹介したが、この二つの記事が、実は出所が同じだったということに、今頃になってやっと気付いたので、この問題をもう一度、分析してみたい。実は僕は、「アエラ」の記事に次のような文章があったことをつい見逃してしまっていた。というよりも、「諸君!」の記事を読んで、その筆者が「世界日報」記者で、「鴨野守」という名前のジャーナリストであることがわかつた時点で、僕は、「アエラ」の記事にもその名前が出ていたことを思い出したのである。つまり、「アエラ」の記事を書いた「ライター長谷川某」は、「沖縄集団自決を現場検証する」とは名ばかりで、現地取材とは言いながらわずか一日か二日の駆け足滞在で、しかも実は事前に、「諸君!」の「新証言者現る!」というトンデモ記事を書いた「軍命令はなかった……」派の「ジャーナリスト鴨野守」から「沖縄集団自決」問題のレクチャーまで受けていたというのだ。おそらく、長谷川某の現地での聞き取り調査や取材も、「ジャーナリスト鴨野守」らがセットしたものに便乗しただけだろう。アエラも、こんないい加減な記事を載せるとは堕ちたものである。

取材者は、座間味島渡嘉敷島のいずれにも丸一日ほどしか過ごせなかったが、両島に詳しいジャーナリスト鴨野守氏らから事前に勉強させてもらっていたので、そのころ10歳代から20歳代だった両島合わせて9人と、それ以降に生まれた同じく5人から、それぞれ別個に話を聞けた。集団自決のあった幾つかの場所で黙祷もできた。(「沖縄集団自決を現場検証する」)

この記事の文章を読み直してみて、僕ははじめて、保守論壇の一部が、手回し良く、この記事を取り上げ、「筆者は元朝日新聞記者……」とかいうような個人情報まで持ち出して、朝日新聞の「内ゲバ」と大騒ぎする理由がわかった。最初から、「アエラ」の記事と「諸君!」の記事の出所は同じあり、二つの記事を書いたライターたちは、言わばグルだつたのである。別に、ジャーナリストやライターたちが、何処で何を勉強し、お互いにどういう密約を交わしていようとどうでもいいことだが、「アエラ」の記事の成立の背景に、何があったかをあらかじめ念頭に入れておくことは、無駄ではないだろう。というわけで、この「アエラ」記事で、秦郁彦等の主張は「実証的」であると暗に褒め称えながら、逆に昨年末の「沖縄集団自決裁判」におる大江健三郎証言や、大江が指摘した曽野綾子の「誤読」(「罪の巨塊」を「罪の巨魁」と誤読した……)や、僕が指摘した「誤字」(「巨魁」)、あるいは『沖縄ノート』を読んだのはつい最近の事で、意味もよく分からなかった……、裁判を開始した理由は赤松渡嘉敷島守備隊長と同期の自衛隊関係者(山本明)の熱心な勧めによる……というような梅澤証言などが、完全にスルーされ、無視・黙殺されている理由も明らかだろう。また、秦郁彦曽野綾子等の歴史記述におる「実証性」の根拠の不在や言説の論理矛盾が明らかにされつつある現在、そして大江健三郎や僕に、厳しく批判され罵倒されている曽野綾子が、あれほど多弁だったにもかかわらず、今や一言の反論も出来ずに沈黙せざるをえない状況に追い込まれている現在、未だに秦郁彦曽野綾子等の主張は「実証的」であると堂々と書けるということは、長谷川某というライターの勉強が、どの程度の勉強(一夜漬けの俄勉強?)であるかを、おのずと明らかにしてくれていると言うべきだろう。ふたたび言う、今、話題沸騰中の「沖縄集団自決裁判」の判決を目前にしたこの段階で、こんなお粗末な原稿を堂々と掲載するとは、「アエラ」も堕ちたものである。ところで、某ブログにこんな書き込みがあった。

1月26日、27日の二日に渡って「集団自決の真実の探求」で、秦郁彦藤岡信勝中村粲、皆本儀博、知念朝睦、鴨野守氏ら学者、ジャーナリスト、関係者の40余名が、「集団自決」の現地調査のため座間味、渡嘉敷両島を訪問した。
その成果が当時15歳で伝令をしていた宮平秀幸(78歳)さんの証言である。
調査団に同行したジャーナリストの鴨野守氏が雑誌『諸君』の4月号にその取材の成果を寄稿しているという。

やっぱり、そうだったのか(笑)。「1月26日、27日の二日に渡って……」、「アエラ」の記事と「諸君!」の二つの記事を書いたライターたちは、仲良く沖縄「集団自決ツアー」に同行していたということのようで、記事の中身が同じようなものになるのも当然だろうし、団長格の「秦郁彦」先生の「実証主義」が、たった二日間の実証主義的な現地取材とはいえ、そんなことはお構いなしに、何の疑いもなく一人歩きするわけである。そして世紀の大スクープ……(笑)。要するに、「アエラ」の記事「沖縄集団自決を現場検証する」は、「軍命はなかった……」派の主催する「集団自決ツアー」に同行した某元朝日新聞記者で、今はライターのお気楽な沖縄旅行土産だったというわけだ。まさしく、インド人もびっくりするような、実証性満点の「実証主義」である。それにしても、長谷川某は、秦郁彦藤岡信勝、中村燐というような「軍命令はなかった……」派の面々と、仲良く現地取材とやらをやっておきながらその事には一言も触れずに、わずかに「鴨野守」の名前を出しただけで、しかも一緒に旅行しておきながらそれには言及せず、あたかも単独で30数人にインタビュー取材し、その成果を、中立的で客観的な立場から「現場検証」し、記事にしたかのように偽装しているわけだが、何故、そんな手の込んだ偽装工作をする必要があったのだろうか。疑問である。何故、「私は『つくる会』会長や、大江裁判の原告を支持し、大江批判を繰り返すメンバー達と一緒に取材旅行をしてきました。」と言えないのか。何故、その重大な「言説の政治性」という事実を隠す必要があるのか。「アエラ」編集部は、それを知っていたのか。「アエラ」編集部が、その事実を知っていて、中立・客観を装ったような記事を掲載し、読者を騙し、「反大江健三郎」派へ、つまり「軍命令はなかった……」派へと誘導しようとしたとすれば、まさしく犯罪的であると言わなければなるまい。「アエラ」編集長の首は大丈夫か……。





(続)

●「諸君!」の記事について http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/edit?date=20080302
●「アエラ」の記事について http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/edit?date=20080301






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資料(過去エントリー)
大江健三郎を擁護する。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071110/p1
■誰も読んでいない『沖縄ノート』。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071111/p1
■梅沢は、朝鮮人慰安婦と…。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071113/p2
大江健三郎は集団自決をどう記述したか? http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071113/p1
曽野綾子の誤読から始まった。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071118
曽野綾子と宮城晴美 http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071124
曽野綾子の「誤字」「誤読」の歴史を検証する。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071127
■「無名のネット・イナゴ=池田信夫君」の「恥の上塗り」発言http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071129
■「曽野綾子誤字・誤読事件」のてんまつ。曽野綾子が逃げた? http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071130
曽野綾子の「マサダ集団自決」と「沖縄集団自決」を比較することの愚かさについて。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071201
曽野綾子の「差別発言」を総括する。 http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071202
曽野綾子の「誤字」は最新号(次号)で、こっそり訂正されていた(続)。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071206
保守論壇の「沖縄集団自決裁判」騒動に異議あり!!!http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20080125