文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

■久保亜津子演出『サド侯爵夫人』を「風姿花伝」で観る

 向陽社・久保亜津子演出の『サド侯爵夫人』の観劇は昨年に続いて二回目である。実は、昨年この芝居を見て以来、三島由紀夫を読みなおしている。僕の場合、三島由紀夫の小説や芝居そのものには、これまで、『仮面の告白』『金閣寺』等、二、三の作品を別としてあまり切実な関心が持てなかった。芝居の脚本も一通り読んだが、それほど記憶に残っていない。やはり芝居は読むものというよりまず観るものなのだろう。昨年、久保亜津子演出の『サド侯爵夫人』を劇場で観てはじめて三島由紀夫の演劇的才能のスゴサがわかった。あれから『サド侯爵夫人』の文庫本をポケットに入れて持ち歩き、すでに何回も読んでいる。三島由紀夫の最高傑作と言われる所以がよくわかる。
 今回は、『サド侯爵夫人』の種本である澁澤龍彦の『サド侯爵の生涯』も古書店で手に入れたので熟読した上で、観劇に臨んだ。
 昨日、文藝評論家(東工大教授)の井口時男さんを誘って二人で観て来た。井口さんと目白駅で待ち合わせ早めにバスで新しい小劇場「風姿花伝」へ。材木店の並びの小さな新築のビルに「風姿花伝」はあった。しかしまだ時間が早く閉まっている。喫茶店に入り三島論と『サド侯爵夫人』論を・・・・・・と思ったが近くに喫茶店らしきものがない。ようやく探し当てた喫茶店ではもっぱら「2ちゃんねる」の話。
 しかし、芝居が始まるとさすがに『サド侯爵夫人』の世界に引き込まれる。舞台終了後は久保さんに簡単に挨拶してそのままバスで池袋へ。バスの中でも興奮気味に「演劇論」「俳優論」を戦わせる二人だった。
 僕は二回目の観劇なので、ついつい前回の舞台と比較してしまう。たとえば、前回ではほとんど目立たなかった「ルネの妹」のセリフ(「ヴェニスへ……」)が、今回は非常に新鮮に響いた。俳優が変われば見えるものも違ってくるのだろう。僕には演劇や演出を語る資質はないのでもっぱら三島の『サド侯爵夫人』の台本そのものの思想と論理について語る。
 井口さんは意外に芝居にくわしい。下北沢あたりに日参した時代もあるらしい。ということで、井口さんの演劇論に耳を傾けつつ飲むビールのうまいこと……。
 いずれにしろ三島の『サド侯爵夫人』をもう一度読みなおさなければ、と思う。久しぶりに芸術的な刺激を受けたことを確認しつつ池袋駅へ。
 久保亜津子さん、ルネの熱演、ご苦労様。