文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

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佐藤優と田辺元ー反知性主義を脱構築するための哲学。

dokuhebiniki2015-08-02



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戦前に活躍した思想家・哲学者に田辺元という人がいた。西田幾多郎が、京都帝国大学の「助教授」として呼び寄せ、西田幾多郎が作り上げた「京大哲学」の伝統を引き継ぐべき後継者にした人物である。戦時中は、大東亜戦争に協力したということで、その責任を感じて京大を辞職し、思想家・哲学者としても沈黙し、軽井沢に隠棲したことで、あまり世間的には知られていないが、忘れてはいけない思想家.・哲学者である。田辺元は、『懺悔道としての哲学』という本もあるが、これは、戦時中の田辺元の言動とも関係する。田辺は、学徒出陣する学生たちに対し、「私は生きる、諸君は死ぬ、死を恐れるな」「天皇のために死ぬことこ学生の使命だ」という趣旨の「励ましの言葉」を述べている。戦場へ向かう京都帝大生の一人ひとりが、田辺の言葉をどううけとったかは、正確には分からないが、真面目に受け取り、「散華」していった学生も少なくないだろう。ある記録によれば、二百数十名の経済学部の学生が、戦後、二十数名になっていたという。当時、助手だった上田泰治京大名誉教授は次のように書いている。


「昭和8年10月、京大楽友会館の一室で小さなパーティーが開かれた。哲学科の学生5,6名が学徒動員で戦地へいく壮行会である。テーブルには田辺先生の奥様の心づくしの白い菊が飾られた。当時副手だった私は小豆を探して大原の里を歩いたが求めることができず、代用品で羊羹めいたものをつくった。食べ物らしいものはまったくなかった。戦地に赴く者はみんな同じ言葉をいった。『我々は往く。往くことに心残りはない。ただこれからは田辺先生のご講義が聴なることだけが残念でたまらない』」
「黙然と聞いておられた先生は言葉をつまらせ、嗚咽しながら 『諸君の言葉は過分です。ご期待に添える様な講義をしてきたとは思えない。まったく相済まないと思います』と目をハンケチでぬぐった。先生の涙を初めて見た。

これより少し前の同年五月に先生は京大の全学生に〈死生〉と題して講演している。このときも悲壮感が漂っていたが、全体としては 『決死の覚悟で国難に向かい、そこに生の意義を発見せよ』、という激励の趣きが勝っていた。それに比べこの日は『済まない』と涙する先生だった。

先生はこのとき、出征していく学生に奨める書物として歎異抄臨済録をあげられたことを思い出す」

(上田泰治京大名誉教授)

もし「戦争責任」ということを言うとすれば、田辺元にこそ、戦争責任はあると言うべきだろう。田辺元は、そいう意味で、現実や歴史と格闘し、その挙句に敗北し、傷ついた哲学者と言うべきだろう。むろん、私は、田辺元に戦争責任はあるだろうと思うが、思想責任があるとは思わない。小林秀雄と同様に、私は、むしろその現実や歴史との命懸けの闘争と、その思想的一貫性を尊敬する。むしろ、彼の思想の本質と秘密を知りたいと思う。田辺元の中心思想は、西田幾多郎の「場所の哲学」に対して、「種の哲学」と言われる。「種の哲学」とは何か。「種」とは何か。種とは、個人ではなく、種=類ということだろうか。個人は死んでも民族は死なない。故に、個人は死んでも永遠に「種=類」として生きるということだろう。これは東洋思想の「ブラッドチェーン(血の鎖)」にもつながる思想のようにも見える。いずれにしろ、戦場へ向かう学生たちは、「死」を覚悟しなければならなかった。出陣学徒たちは、「死の合理化」が必要だった。田辺元の「種の哲学」は、「死の合理化」の哲学となったのかもしれない。さて、その田辺元に、佐藤優も、しばしば言及している。何故か。佐藤優田辺元。そこに、何があるのか?佐藤優が、ベストセラー作家として大量生産、大量消費を繰り返しているにもかかわらず、その才能が簡単に「消費=消耗」され、「劣化=枯渇」しない理由は、ここらあたりにあるのか?佐藤優には、情勢論的、ジャーナリスト的才能と同時に、ジャーナリストが決して持たない「原理的思考」、あるいは、私が言うところの「存在論的思考」がある。それは、戦後の社会科学優位の時代に無視され続けている「哲学的思考」と言ってもいい。おそらく佐藤優が、極限状況を生きた哲学者・田辺元に注目するのも、そこに理由があるのだろう。田辺元の戦時中の講義を聞いたという森嶋通夫は、「以後、絶対に『哲学』や『哲学者』を信用しない」と誓ったというが、多くの日本人の正直な感想だろう。しかし、そこに戦後思想の弱点があることも明らかである。(続く)





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