文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

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櫻井よしこ批判――何故その言説は変節するのか?以下は、『保守論壇亡国論』(9/16発売)の一部の再録です。

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■何故櫻井よしこは重用されるのか
 まず、最近の保守論壇を象徴する言論人として櫻井よしこを取り上げたい。櫻井の発言は、一般の読者や大衆に対して相当の影響力を持っているようである。新聞や雑誌などを通じての情報発信力、あるいは政界や政治家への影響力も、保守系ジャーナリストの中ではひと際目立っている。テレビ報道番組のニュースキャスター出身で、話が上手く、見栄えもするため、保守論客として引っ張りだこである。
 しかし、櫻井を「保守論壇のマドンナ」として持て囃す保守論壇を見ていると、保守論壇が思想的に地盤沈下し、退廃してしまったことを感じる。櫻井をあたかも一流の保守思想家のように敬い、歓迎している保守論壇のレベルの低さには、改めて失望するほかない。
 そもそも櫻井にとって保守や保守思想はどのようなものなのか。櫻井の言動を見ていると、保守や保守思想を小道具にして時代の流行に迎合しているだけではないのか、と疑いたくなることも少なくない。
 櫻井はいかにもオリジナルな保守論客然として振舞っているが、そう振舞っているだけであり、その中身はほとんど先人たちが述べたものを記憶し、反復しているだけだ。櫻井が好んで使う「国家観」や「歴史観」、「国益」といった言葉も、保守論壇で頻繁に使われるキーワードで、別に新鮮でも何でもない。
 櫻井は尖閣諸島北方領土などの領土問題が話題になると、すぐに飛びついて過激な議論を繰り返すが、そこにオリジナルな議論や主張などは見られない。日韓問題にしろ日中問題にしろ、その発言は過激さだけが取り柄で、傾聴すべきものはほとんどない。中国や韓国に対する発言の過激さは、最近話題になっている在特会による「ヘイトスピーチ」や「民族差別発言」とさほど変わらないように見える。
 要するに、櫻井は保守論壇の多数意見、「偏狭なナショナリズム」を代弁しているだけにすぎないのである。

福島瑞穂との対談を「捏造」
 これまで櫻井が扱ってきた問題は多岐にわたる。薬害エイズ事件に始まり、小泉構造改革論南京事件問題、従軍慰安婦問題、拉致問題核武装論、憲法改正、中国問題、沖縄集団自決裁判など、櫻井はいつも専門家のように自信満々に語ってきた。
 しかし、繰り返すが、その発言や分析の独自性はゼロに等しい。その多くは先人たちの業績のコピー、それも劣化コピーにすぎない。櫻井もまた、小林よしのりと同様に、ありふれた保守論壇の思想や意見を、大衆向けにわかりやすく伝達する「煽動家」、「アジテーター」と言うべきだろう。
 しかも、櫻井の発言には疑わしいものが多い。たとえば、櫻井は以前、社民党の党首だった福島瑞穂との「架空対談」をでっち上げたことがある。これについて、福島瑞穂は月刊誌『創』(一九九七年四月号)で、こう書いている。

 《1996年12月の上旬頃、桜井さんから電話がかかってきた。「福島さんに対して実に申し訳ないことをしました。講演をしたときに、うっかり口がすべって、『従軍慰安婦の問題について福島さんももう少し勉強をしたらどうですか』と言ってしまったのです。本当に申し訳ありませんでした」といった内容の謝罪の電話であった。12月29日頃、講演録の冊子を見て心底驚いた。
 「私は福島さんを多少知っているものですから、あなたすごく無責任なことをしているんではないですか、というふうに言いました。せめてこの本を読み、せめて秦郁彦さんの研究なさった本を読み、済州新聞を読み、そして秦郁彦さんなどの歴史研究家の従軍慰安婦の資料を読んでからお決めになったらどうだろう、吉田清治さんの本を証拠として使うこと自体がおかしいのではないかと言ったら、ウウンまあ、ちょっといろいろ勉強してみるけど――というふうにおっしゃってましたけれども……」となっているのである。
 講演や話し言葉のなかで、うっかり口がすべったり、不確かなことをしゃべってしまうことはもちろんある。しかし、この講演で話されている私との会話は、全く存在しない架空の虚偽のものである。だからこそ桜井さんは百パーセントその事実を認め、謝罪をしたのである。(中略)
 全く存在しない「対談」をあるものとして語ることと、存在している歴史的事実をないものとして語ることは、コインの表と裏ではないだろうか。》(「『慰安婦』の存在を再び闇に葬るのか」)

 従軍慰安婦問題は、南京事件問題と並んで保守論客たちが競って取り上げる重要テーマであるが、そのおおよその内容は、保守論壇に関心を持つものは誰でも知っている。「慰安婦はいたが、従軍慰安婦はいなかった」とか「軍による慰安婦の強制連行はなかった」、「吉田清治の証言は嘘であることが証明された」というような主張だが、櫻井はそれをいかにも専門家であるかのように論じている。
 しかし、櫻井の議論は、南京事件問題にしろ従軍慰安婦問題にしろ、すべて他人の尻馬に乗って繰り広げたものであって、櫻井が自らの手足、そして頭を使って、つまり現地調査や資料分析の末に到達したものではない。それらは単に先行研究者たちからの受け売りにすぎない。受け売りであるが故に、言論人として命取りとも言うべき「捏造」を平気で行うことができるのかもしれない。
 それにしても、架空対談を「捏造」するとは、まったく唖然とする話である。従軍慰安婦問題論争の遥か以前の、ジャーナリストとしての品格の問題である。
 かつて朝日新聞において「伊藤律会見」なる虚偽報道があったが、そこまではいかないとしても、言論人にあるまじき、恥ずべき事件である。このような人物が「保守論壇のマドンナ」として重宝されているということこそ、保守論壇の思想的劣化を象徴していると言わなければなるまい。

鈴木宗男櫻井よしこ論争を読み解く
 櫻井の保守系ジャーナリストとしての思想的劣化を示す例を、もう一つ挙げよう。
 それは、北方領土返還交渉をめぐる鈴木宗男との論争である。実はこの論争も、櫻井の勘違いと受け売りから始まっている。しかも、櫻井はその勘違いを認めようとせず、論争から逃亡した。
 櫻井は小泉政権時代にも、鈴木宗男バッシング報道の空気(ガセネタ)に乗せられて鈴木宗男批判を行っていた。流行の話題があるとすぐに飛びつき、専門家気取りの発言を繰り返すところに櫻井の特徴があると言えよう。
 それでは論争の経過を見ていこう。まず、櫻井が産経新聞(二〇〇九年五月一四日)に、「麻生首相に申す」と題し、次のような鈴木宗男批判を書いたことから論争は始まった。

 《……数年前に、いま、4島返還論の側に立つかのような印象を与える鈴木宗男氏は「4島一括返還」という言葉自体を「時計の針を逆に戻すもの」と批判した。いわゆる段階的返還論を論ずることで、鈴木氏もまた、日本側が2島返還でとりあえず、問題決着をはかる用意があるかのような印象を、ロシア側に与えたのであり、責任は重大だ。》

 これは明らかに誤解と勘違いに基づく議論である。鈴木宗男の主張は、「四島返還」を求めるが、その原則を掲げているだけでは問題は永久に解決しない、したがって、北方四島の日本への帰属さえ確認されれば、実際の返還時期については柔軟に対応していく、というものだった。
 鈴木は櫻井の批判に対して、自分は一貫して四島返還論だ、証拠を示してくれ、ということで、内容証明つきの手紙を送った。

 《……明確に申し上げます。私は、4島返還の旗を降ろしたことは一度もありません。歯舞、色丹、国後、択捉は我が国固有の領土であり、私はこれを譲ったことはないのです。
 7年前、私がバッシングを受け、逮捕された時期、新聞等の一部マスコミより、「鈴木宗男は二島返還論者だ」との批判がなされたことはありました。しかし私は、あくまで、最終的に四島を取り戻すにはどの様なアプローチがあるかを考え、当時の橋本龍太郎小渕恵三森喜朗内閣総理大臣の指示、日本政府の方針に従って行動しただけであります。
 櫻井様が、私がかつて二島返還で北方領土交渉を決着させようとしていた一方で、今は、四島返還論の側に立っているかの様な印象を与えていると考えておられるならば、その具体的、客観的根拠を示される様、強く求めます。
 また櫻井氏は「鈴木宗男氏は『4島一括返還』という言葉自体を『時計の針を逆に戻すもの』と批判した。」と書かれております。「四島一括返還」という言葉が、日ロ関係の時計の針を逆に戻すものという指摘は、事実に基づいた正しいものであると私は認識しております。なぜなら日本政府は、中山太郎外務大臣(当時)がモスクワを訪問し、ゴルバチョフソ連大統領(当時)、エリツィン・ロシア大統領などと公式に会談した1991年10月以降、北方領土交渉において、「四島一括返還」という主張をしていないからです。
 櫻井様もご存じのことと思いますが、「領土問題は存在しない」と主張するソビエト社会主義共和国連邦時代、日本政府は四島一括返還の上に「即時」という言葉を付けていました。しかし、ソ連が崩壊し、自由と民主のロシア連邦共和国になってから、日本政府は次の様な対処方針を採用したのです。
 〈交渉にあたり、我が国は、ロシア側が九一年後半以降示してきた新たなアプローチを踏まえ、北方四島に居住するロシア国民の人権、利益及び希望は返還後も十分に尊重していくこと、また、四島の日本への帰属が確認されれば、実際の返還の時期、態様及び条件については柔軟に対応する考えであることを明示しつつ、柔軟かつ理性的な対応を取りました。〉
 外務省が発行している広報誌「われらの北方領土」には、1993年版から(2004年版を除く)この記述がなされています。この様に、日本政府として、ソ連崩壊後、北方四島の一括返還という方針を転換していることがきちんと述べられております。
 今更「四島一括返還」という言葉を持って交渉にあたることは、自由と民主のロシアではなく、共産主義ソ連を交渉相手としていた時代に戻ることを指すという意味で、私は「時計の針を逆に戻す」旨主張したものです。この点を櫻井様は承知されておりましたでしょうか。》(「ムネオ日記」二〇〇九年五月一八日)

 これに対する櫻井からの回答はなかった。そこで、鈴木が再度問い合わせたところ、次のような回答が届いた。

 《政治家であり、公人であり、メディアでも活躍中の言論人でもあるにもかかわらず、配達証明内容証明を送りつけるとはどういうことでしょうか。公人であり、言論人であれば、このような姑息な証明郵便を用いるのではなく、堂々と議論を挑まれるのが筋ではありませんか。鈴木議員が毎月送って下さっている『月刊自由』でも、その他如何なるメディアでも、私は議論を受けて立ちたいと思います。》(「ムネオ日記」二〇〇九年六月二三日)

 櫻井の場合は、何よりもまず、最も重要な要素とも言うべき事実関係が間違っている。鈴木はそこを厳しく追及しているわけだが、これは要するに、伝聞情報や噂話程度の怪しい情報を鵜呑みにし、それを前提に議論を展開するという、最近の保守論壇でよく見られる貧しい思想的現実を突いているのだ。

(以下略)

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