文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

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柄谷行人論序説(13)

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柄谷行人の新著『哲学の起源』をどう読むか。
何故、今、柄谷行人を読むのか?それは、目先の政策論や情勢論には、何か、大事なものが欠如しているからだ。大事なものとは、「深く考える力」である。「深く考える力」とは、言うはやすいが、それを実践するのは決してたやすくはない。
 もし、作家や批評家ならば、その人が、「深く考える」とすれば、その結果として、必然的に「作品」を「創造(創作)」することが出来る。しかし、言うまでもなく、おおくの人は、「作品」を「創造」するほど、それほど深く考えることは出来ない。作品を創造するまで「深く考える」とは、どういうことか。
小林秀雄は、こういうことを言っている。


 ≪創造というものが、常に批評の尖頂に据っているという理由から、芸術家は、最初に虚無を所有する必要がある。 (ランボオ�)≫


 つまり、「深く考える」とは、「虚無を所有する」ところまで、深く考えるということなのだ。考えすぎると「矛盾」にぶつかる。普通は、矛盾することは悪いことのように受け取られている。しかし、それが逆なのである。つまり。考えすぎて矛盾にぶつかることこそむ、小林秀雄的な意味での「虚無を所有する」ことなのである。
 柄谷行人の思考には、そういう虚無と矛盾が溢れているように思われる。そこに、柄谷行人を読むことの困難さがある。柄谷行人の思想を、たとえば「他者」「外部」「差異」「形而上学批判」「互酬性」「イソノミア」…を理解し、わかりやすく解説することは、それほど難しくない。しかし、柄谷行人が、なぜ、そういう思考をするようになったかを理解することは容 易ではない。つまり、私にとっては、柄谷行人の思想も大事だが、むしろそれ以上に、柄谷行人の「実存」こそ問題なのである。
 さて、最近は、書店に行って見ても、書棚に並んでいるのは、分かりやすさが売り物の新書や、薄っぺらな漫画入りの入門書、金儲けの本、わかり易い人生論の本・・・などばかりである。とても「創造(創作)」された「作品」とは言い難い。ちょっと難解そうな本と言っても、手に取り、読みたいという欲望をひきおこすことはない。所詮、誰でも、時間と多少の才能さえあれば書けそうな研究書の類に過ぎない。それらの本と柄谷行人の『哲学の起源』を同一視することは出来ない。しかし、それらの本の並ぶ書棚に、柄谷行人の本も並んでいる。しかし、柄谷行人の本は、それ らの中で異彩を放っている。地味な、堅い内容で、明らかに難解な本だが、結構、売れているらしい。何故、柄谷行人の本だけ売れるのか。最近の柄谷行人の著作には『世界史の構造』や『哲学の起源』がある。もちろん、そこには尖閣問題も竹島問題も原発問題も、具体的には出てこない。しかし無縁であるわけではない。どこか深いところでつながっている。
 つまり、柄谷行人の著作こそ、物事を根底から、深く考えた「原理論」論的な本だと言っていい。僕が、わざわざ柄谷行人の読書会まで開いて、柄谷行人の本を読み続ける理由は、そこにある。現代は、実用書の時代である。「小説」より、「小説の書き方」を書いた本が売れる時代である。その意味では、柄谷行人の本やテクストは実用的なもので はない。
週刊読書人」という週刊の書評新聞がある。そこの新年特集号に、柄谷行人が登場し、長編のインタビューを受けている。新刊の『哲学の起源』の誕生秘話を語っている。近頃、これほど興奮しつつ読んだインタビュー記事はない。こういう企画が、文芸雑誌ではなく、小さな書評新聞でなされるところに現代日本の知的貧困というか、知的地盤沈下を感じざるをえない。つまり、文芸雑誌が文藝雑誌の役割を果たしていないということである。
 言うまでもなく、『哲学の起源』は、マルクス主義的な「生産様式」ではなく、「交換様式」によって世界史の発展の構造を読み直そうとする大著『世界史の構造』の続編、ないしは増補版と言うべき本である。しかし、私には、この新刊は、それ自体 としても、かなり面白かった。
イオニアアテネ、イソノミアとデモクラシーを区別すること。
 これまで定説化していたソクラテスプラトンアリストテレス心の哲学史、つまりアテネ心の哲学史を、それ以前のイオニアの哲学、哲学者たちの中心思想「イソノミア」を再評価することによって、哲学の歴史を転倒=再構築しようとする大胆な企てだからだ。文字通り、哲学の起源を問い直したものだ。むろん、こういう試みは、柄谷行人が最初ではない。ニーチェハイデッガー、あるいはハンナ・アーレント等もまた、柄谷行人のようにアテネの哲学、とりわけプラトンアリストテレス心の哲学史を批判し、その転倒を試みている。しかし、柄谷行人は、世の学者たちのように、ニーチェやハ イデッガー、アーレントの模倣・反復しているわけではない。柄谷行人は、こう言っている。



  ≪アーレントアメリカのタウンシツプに対する「記憶喪失」に関しては鋭敏であるが、イオニアのイソノミアに関する「記憶喪失」に関しては鈍感である。同様のことが彼女の師であるハイデガーギリシャ理解についてもいえる。彼はソクラテス以後の哲学において存在者の「存在」が忘却された、という。だが、このような見方は、近代社会において人々の共同体的なあり方が忘却されたというロマン主義的な見方を超えるものではない。あえて「存在忘却」というのであれば、イオニアにあった本来的なイソノミヤがアテネにおいて完全に忘却されたという事態こそ見るべきなのだ。≫(『哲学の起源』)



  そもそも柄谷行人は、「イソノミア」という言葉と概念を、アーレントの『革命について』という本から学んだらしい。しかし、柄谷行人は、そこにとどまらない。柄谷行人は、実はアーレントは、「イソノミア」と「デモクラシー」の区別、つまりアテネの哲学とイオニアの哲学の区別が出来ていないと批判する。



  ≪イソノミアの概念は、『革命について』でアーレントが書いたことから学んだものです。そこで、彼女はねフランス革命アメリカ革命の違い、そしてその意味について書いたのですが、最初のほうに、ギリシャのことで、イソノミアとデモクラシーを区別して語っています。デモクラシーは「cracy」(支配)の形態であり、イソノミアは無支配である、というのてす。しかし、そのあと、彼女は本論に入って、18世紀アメリカのタウンシップを高く評価し、それを評議会だと言っています。評議会とは、ロシア語でソヴィエト、ドイツ語でレーテと呼ばれたものです。ある意味で、これは僕がいう交換様式Dの形態です。しかし、そんなことをいうならば、彼女は、ギリシャのイソノミアがデモクラシーと異 なる評議会のようなものだと、なぜ思わなかったのか。結局、ギリシャに関して、彼女はイソノミアとデモクラシーを区別出来ていない。それはアテネイオニアを区別しなかったからですね。≫(「民主主義を超えて、イソノミアの回帰を」「週刊読書人」2013/1/4)



イソノミアとデモクラシーを区別すること、イオニアアテネを区別すること。柄谷行人が、『哲学の起源』で明らかにしようとしているのは、そのことである。
 デモクラシーからイソノミアへ。デモクラシーを超えることは可能か?柄谷行人の『哲学の起源』を読みながら、何故、柄谷行人を読むことは刺激的で面白いのかを考える。柄谷行人は「まだ思惟されていないもの」(ハイデガー)を考えようとするから、刺激的で面白いのだということが分かる。柄谷行人は、この『哲学の起源』で、アテネ哲学に起源を持つと言われているデモクラシー(代議制民主主義)を越える政治体制について考えている。デモクラシーもまた「支配」「強制」に一形態である。普通には、デモクラシーが日本に定着していない から様々な問題が起きると考えられている。しかし柄谷行人は、そデモクラシーを越える政治体制を考えようとする。かって、「共産主義」や「ナチズム」「ファシズム」・・・などがデモクラシーを越える政治体制だと考えられたこともあるが・・・。そこで、柄谷行人は、共産主義などの失敗を踏まえた上で、イオニアにあったという「イソノミヤ(無支配)」をヒントに、デモクラシー以後の未来社会を考える。
柄谷行人は、人類が移動遊牧民の生活を捨てて、定住し、農耕生活を開始するようになった時点で、 富の蓄積が可能に成り、貧富 の差異や権力の存在 、階級分裂・・・が始まると考える。つまり、移動遊牧民社会では、互酬性、互酬原理すら不要であった。そこでは、富の蓄積が不可能であるが故に、純粋贈与が行われていたからである。そこでは平等であり、かつ自由であった。最初の定住生活である氏族社会では、貧富の差異や権力の存在、階級分裂を防ぐために、互酬性、互酬原理が発達する。移動遊牧民時代の純粋贈与の記憶が蘇り、貧富の差異や権力の存在、階級分裂を防ごううとする。それが互酬性なのである。しかし、平等ではあったが、自由ではなかった。共同体の圧力、共同体の強制があったからだ。


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