文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

江藤淳と三島由紀夫、そして小林秀雄の闘い。この思想的・文学的闘いこそ本物であった。しかし三島の哀しみを内在化することも出来ず、ただその死を偶像化するだけだった保守・右翼論壇は、いつのまにか空洞化し、形骸化して行く運命にあった。

三島由紀夫が自決した日が、また、今年もやって来た。11・25。この日には、日本人なら、それぞれ忘れられない深い思い出があるだろう。僕も例外ではない。しかし僕は、もうすでに『小説三島由紀夫事件』などで書いたり、語ったりしたので、これ以上、語る気はしない。むしろ今は、三島由紀夫三島事件について、そんなに気軽に語るべきではないと思っている。語れば、全てが嘘になるか、受け売りにしかならないからである。そこで僕は、三島事件直後の小林秀雄江藤淳の対談について考えてみたいと思う。


小林 ・・・宣長と徂徠とは見かけはまるで違った仕事をしたのですが、その思想家としての徹底性と純粋性では実によくにた気象をもった人なのだね。そして二人とも外国の人には大変わかりにくい思想家なのだ。日本人には実にわかりやすいものがある。三島君の悲劇も日本にしか起きえないものでしょうが、外国人にはなかなかわかりにくい事件でしょう。


江藤 そうでしょうか。三島事件は三島さんに早い老年がきた、というようなものじゃないんですか。


小林 いや、それは違うでしょう。


江藤 じゃなんですか。老年といってあたらなければ、一種の病気でしょう。


小林 あなたは病気というけどな、日本の歴史を病気というか。


江藤 日本の歴史を病気とは、もちろん言いませんけれども、三島さんのあれは病気じゃないですか。病気じゃなくて、もっとほかに意味があるんですか。


小林 いやァ、そんなことを言うけどな、それなら吉田松陰は病気か。


江藤 吉田松陰三島由紀夫は違うじゃありませんか。


小林 日本的事件という意味では同じだ。僕はそう思うんだ。堺事件したってそうです。


(「歴史について」S46.7「諸君」)

当代一流の思想家と思想家、あるいは文学者と文学者の命懸けの「一騎討ち」 のような、この対談は、一見、とても分かりやすい対談である。 三島由紀夫の自決を擁護するものと、逆に否定するものとの対談。文学とは無縁な、あるいは文学に疎い一般読者が、この対談をどう受け止めたかは明らかだろう。そもそも、この対談を読んだ一般読者が、そんなにたくさんいたはずがない。いや、誰れも読んではいない。この対談に対する批評や解説は、自称専門家のものを含めて、ほとんどが伝聞情報か、又聞きをもとにした受け売りの類であろう。江藤淳小林秀雄の 内在的論理など理解できるはずがない。ましてや三島由紀夫の内在的論理など。三島事件以後とは、三島由紀夫の内在的論理など理解できるはずもないものたちが、三島由紀夫の良き理解者を気取り、三島由紀夫を「病気」と切り捨て、三島事件を「ごっこ」にすぎないと批評した江藤淳的言説を批判・罵倒して来た歴史だった。むろん、三島由紀夫の良き理解者を気取ってきた彼等は、マスコミやジャーナリズムで、「我が世の春」を謳歌して来ただろうが、彼等の思想や言説が空洞化し、形骸化していくのは当然であった。さて、小林秀雄三島由紀夫の二人が、三島が『金閣寺』を書き上げた 直後、対談しているが、そこで小林秀雄は、三島由紀夫をかなり辛辣に批評している。

小林・「やっぱり、あれ(「金閣寺」のこと)は、毀誉褒貶こもごも至るというやつだろうな。」


三島・「………。」(笑)


小林・「何か、批評っていうことを、しなきゃいけないんですか。雑談でいいんでしょ?まあ、そういうふうなのんきなことにしてもらいましょう。」

三島・「ドラマが成立しない。」


小林・「しない。だから抒情詩になるわけだよ。無論、作者はそういう意図で書いたんだと思うんだよ。だから抒情的には非常に美しいものが、たくさんあるんだよ。ありすぎるくらいあるね。ぼくはあれを読んでね、きみの中で恐るべきものがあるとすれば、きみの才能だね。


三島・「……。」(笑)


小林・「つまり、あの人は才能だけだっていうことを言うだろう。何かほかのものがないっていう、そういう才能ね、そういう才能が、君の様に並はずれてあると、ありすぎると、何かヘンな力が現れて来るんだよ。魔的なもんかな。きみの才能は非常に過剰でね、一種魔的なものになっているんだよ。ぼくにはそれが魅力だった。あのコンコンとして出てくるイメージの発明さ。他に、君はいらないでしょ、何んにも。」
(「文藝」昭和31年9月号)


(続く)


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