文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

吉本隆明氏の話。

一昨日、偶然につけたNHK「3チャンネル」の番組で、ごく一部だが、糸井重里氏がプロデュースしたとかいう「吉本隆明講演会」の録画放送を見ることが出来て、大学生の頃、「吉本隆明全著作集」まで買って読み耽ったことのある、僕自身の思想形成にとってかなり重要な役割を演じた、思い出深い詩人、思想家だけに、ちょっと感激した。吉本氏は、今(講演会当時)、83歳になるそうだが、さすがに外見から受ける印象では、大分、老いたという感じではあるけれど、依然として頭脳明晰であり、最近でも「中央公論」四月号で中沢新一氏と対談していることからも明らかなように、その発言は傾聴に値するものだった。皇国少年だった吉本氏が、敗戦のショックから立ち直るためにアダム・スミスから始まりリカードを経てマルクスに至る「経済学」の勉強に打ち込み、特にマルクスの思想から深い影響を受けて、いわゆる「吉本思想」、あるいは「自立思想」なるものを打ち立てていっったという話は、すでに何度も読んだり聞いたりしていることではあるが、あらためて本人の口から聞くと、吉本氏が繰り返し口にした「自己表出」「指示表出」なる吉本的キイワードとともに、なつかしく、且つ新鮮であった。僕が学生の頃、ちょうど『言語にとって美とはなにか』という大長編の言語論が刊行されたばかりで、当時の文学青年や政治思想青年たちに熱狂的に読まれており、また「試行」という個人雑誌には『心的現象論』という人間存在論が連載中であり、一方では「文藝」(河出書房)に連載された『共同幻想論』という国家論が、左翼学生を中心によく読まれ、「国家は幻想である」とか「対幻想」いう言葉とともに頻繁に話題になっていたものであるが、しかし僕自身は左翼ではなく、むしろ小林秀雄江藤淳の影響下にあり、政治思想的には保守反動を自称していたくらいだから、「吉本隆明の読み方」は、左翼学生の読み方とは根本的に違っていたと思う。むしろ吉本本を熱狂的に読み、吉本を教祖と仰ぎ、「自立派」とという吉本一派を形成しているよう左翼学生、つまり単純素朴な吉本ファンを軽蔑していた。要するに僕は、吉本隆明を、イデオロギーとして、つまり「左翼思想家」、あるいは「革命思想家」としては読んでいなかった。それでも僕が熱心に吉本隆明を読んだのは、そこに、小林秀雄江藤淳と共通する深い、根源的思索の跡を発見していたからだったが、それは僕が、同じように頭のいい左翼学生の必読書であった広松渉という哲学者の本を持ち歩き、傍線を引きながら読んでいたこととも無縁ではない。要するに、それは現在でも変わらないが、当時から、左翼であれ右翼であれ、深く、根源的な思索を展開する思想的な過激派に、僕は関心があったのである。当時、フランスで構造主義構造主義的言語論がブームになり、我が国の言論・思想界にも逸早くその構造主義とやらが輸入され、「吉本隆明は古い」という言説が一般化されつつあったが、僕は、これは柄谷行人氏もいっいることだが、「吉本隆明は古い」と言っている人たちの方が、はるかに「古い」と思ったものだ。「吉本隆明は古い」と切り捨てた人たちは、ただ単に一過性の流行思想としての構造主義ブームに乗っただけの人たちであり、当然の結果だが、わずかに蓮実重彦氏等を除けば、その殆どはマスコミやアカデミズムの表舞台らも消えている。ところで、テレビ映像で見る限りでも、「吉本隆明講演会」には多くの若者たちが詰め掛けて、大盛況だったようだが、これは吉本思想の復活を意味しているはずである。僕が、吉本隆明でもっとも評価するのは、吉本隆明の弟子やファンやエピゴーネンたちの多くが、大学に就職したにもかかわらず、どこの大学やそれに類する組織にも属さず、一貫して民間の一市井人として、その長い思想生活を貫徹したという「生き方」である。吉本隆明氏が言うところの「自立思想」とはその生き方そのものである、ということが出来よう。つまりマスコミや大学とうような組織に属しているか、あるいはそこで碌を食んでいるかぎり、思想の自由はない、あるいは独自の思想展開はないということだろう。これは、今回のオザワ事件とも無縁な話ではない。オザワ事件で露呈したテレビ、新聞、雑誌、週刊誌という伝統的なメディアの思想的限界は、吉本氏の「自立思想」や「自立メディア」という発想によって乗り越えられると思われる。むろん、伝統的メディアにもそれなりの存在意義はあるだろうが、そこに様々な権力(制度)からの「情報操作」や「思想統制」というメディアの抑圧装置が付きまとう以上、僕が、ブログを始めるに当って書いておいたように、誰からも、また何処からも統制や支配を受けない「自立メディア」としてのブログ、あるいはネットという相互方向的コミュニケーション・メディアは、かなり有効であると言うべきだろう。




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