文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

佐藤優氏の「日本国家の神髄」を読みながら…。


佐藤優氏が、戦前に文部省から刊行された「国体の本義」を、現代的視点から読み解いた「日本国家の神髄」が、昨年十二月に出版され、書店の店頭に並んでいるわけだが、ところで僕は、例年、正月休みの帰郷の折は、普段、手に取るのが億劫な、読み応えのある重厚な本を何冊か持参し、新幹線の中や田舎のコタツの中で暇に任せて読みふけることにしているが、今回は、そういうふうにして読みふけった本の一つが、上記の佐藤氏の「日本国家の神髄」であった。正直に言うと、僕は、佐藤優氏と交流がなければ、この「国体の本義」なる本を手に取ることも、もちろん読むことはなかったかもしれない。確かに「国体の本義」に書かれていること、たとえば「天皇」「国体」「大嘗祭」「西欧近代文化とどう向き合うか」…等に興味がなかったわけではないが、しかし僕の興味は、別の系譜からのものであって、つまり小林秀雄本居宣長と「古事記」、あるいは柳田國男折口信夫と「大嘗祭」…というような系譜からの興味であって、言うならば、すでに多くの人がたどったことのある平均的な読書・研究の道であって、別にそれほど目新しいというようなものではなかったが、佐藤氏を講師とする吉野の勉強会で、佐藤氏に薦められる形で「国体の本義」なるテキストを手に取り、また今回は佐藤氏による読解作業をまとめた一冊の本「日本国家の神髄」を手に取り、「眼から鱗が落ちる」とはこのことか、とあらためて実感しながら、読みふけったというわけである。とりわけ、僕ははじめて知ったことだが、「国体の本義」は何人かの共同著作らしいが、その中の主要執筆者の一人が「橋田邦彦」という東大医学部教授であり、同時に一高校長を兼任、近衛内閣と東條内閣で文部大臣、という経歴から、戦後は、GHQから戦犯として呼び出されたが、それに応じず「自決」(服毒自殺)したという事実だった。僕は、この事実を知り、そして今までそれを知らなかったことに衝撃を受けた。橋田邦彦の遺書には、こんなことが書かれていた。

今回戦争責任者として指名されしこと光栄なり、さりながら勝者の裁きにより責任軽重を決せられんことは、臣子の分として堪得ざる所なり、皇国国体の本義に則り茲に自決す

僕は、この遺書から、すぐに、戦後、「近代文学」の座談会で、「利巧な奴はたんと反省すればいいじゃないか。僕は莫迦だから反省なぞしない」とタンカを切り、戦後の民主主義的風潮に抵抗して、沈黙した小林秀雄の言葉を連想する。僕は、文学者や思想家を評価するとき、その作品の優劣はもちろんだが、それと同じか、うあるいはそれ以上に、その「生き方」や「身の処し方」を重視するが、もちろんそれは道徳的な生き方を評価するというようなことではなく、自分が展開した思想言論に対して、思想責任を取る覚悟があるかないかを意味しているが、その意味で、橋田邦彦という医学者、思想家、政治家を高く評価しなければならないと思う。言い換えれば、こういう思想家を生み出しただけでも、大東亜戦争には意味があったと言うべきだろう。「大東亜戦争は自存自衛の戦争だった」「コミュンテルンの世界革命の謀略にはめられた」「真珠湾攻撃ルーズベルトの罠だった」・・・というような、被害者史観的な視点からの昨今の保守思想家たちによる「日本無罪論」にはうんざりさせられるが、橋田のような「戦争責任」「敗戦責任」を自覚している上に、自決する覚悟のある確信犯的な思想家・科学者がいたということは、誇りにしていいと思う。佐藤優氏も、こう書いている。

時代の思想に殉ずるという姿勢においても、橋田氏は思想と行動の乖離が少ない。ほんものの思想家と思う。時代の精神に殉じた橋田氏の魂を鎮魂するとともに、その思想的遺産を現代によみがえらせることも重要という思いを込めながら、私はこの本を書いた。(「まえがき」P7)

「橋田氏はほんものの思想家である」「時代の精神に殉じた橋田氏の魂を鎮魂する」「橋田氏の思想的遺産を現代によみがえらせる」・・、まったく同感である。それにしても、禁書として日本人の眼から消えてしまったテキストを発掘し、それを深く読み解き、さらに現代にも通じる課題として思想的に展開していく佐藤氏の知的腕力の凄さに、あらためて驚嘆するほかはない。僕は、以前から、佐藤優の登場によって、日本の思想状況は一変した、とりわけ保守論壇の思想状況は、もはやこれまでのような、素人に毛の生えたレベルでの、コラムニスト的思想や新聞記者的思想、あるいは漫画的思想では通用しなくなったと主張しているが、ここでもう一度、それを実感しているところだ。
(続)






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