文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

佐藤優氏の「櫻井よしこ・北方領土論」へのコメントより。

北方領土返還交渉」の当事者の一人だった佐藤優氏から、昨夜、北方領土返還交渉をめぐる櫻井よしこ氏や小林よしのり氏の言説へのコメントをいただいたので、ここに再録する。僕は、今、佐藤優氏の思想的原点とも言うべきデビュー作『国家の罠』の中の「ケインズ型からハイエク型へ」「国際協調的愛国主義から排外主義的ナショナリズムへ」の項を再読しているところだが、あらためて、ここに、現代日本の政治的、思想的問題の核心とその病巣が具体的に分析・解明されていることが、分かる。「新潮文庫」版で言うと、373ページから382ページにいたるあたりである。この問題に興味のある方は、是非、一読してもらいたい。

佐藤優


山崎行太郎先生
 山崎先生が、北方領土を巡る櫻井よしこさんの事実誤認に関して、<櫻井よしこ女史は、鈴木宗男氏の批判に答えていないようだが、おそらく都合が悪くなり、公衆の面前で論破されるよりは、「逃げるが勝ち」と判断したのだろう。>と評価されていますが、それはその通りと思います。さすが天下の論壇人である櫻井さんは、恥を知っています。だから逃げるのです。
 この点、わが政治漫画家の小林よしのりさんの強さは恥を知らないことです。客観性、事実性、実証性をいっさい無視するのですから、いったん小林さんの言説を信じるという決断をした人たちにとっては絶大な効果をもちます。
 ただし、ここに小林さんの限界があります。それは小林さんが、これまでの知的蓄積、社会的了解を無視した私的言語で物事を語ろうとしていることです。ヴィトゲンシュタインも指摘しているように、私的言語は成立しません。政治漫画家の小林さんは、言葉の力によって滅ぼされていくと思います。
 この甘やかされた、哀れな政治漫画家が問題なのではありません。雑誌の内容に関する責任は編集長が負います。この政治漫画家が発する私的言語で商売をしようとしている商業出版社とそこで働く知的基礎訓練ができていない編集長さんに問題があります。問題の本質を政治漫画家は理解できないと思います。しかし、編集長は理解できます。それ故にこの商業出版社の編集長の責任はきわめて重大と思います。
 2009年7月27日 佐藤優
(2009/07/27 23:25)