文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

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宇野弘蔵の「恐慌論」の哲学的意味について。


柄谷行人西部邁対談「恐慌・国家・資本主義」(「中央公論」五月号)は、多くの示唆に富む議論を展開しているが、中でも、戦後の東大経済学部でマルクス経済学を長く講義していた宇野弘蔵という学者・思想家に関する議論は、柄谷行人氏、西部邁氏ともに東大経済学部出身と言うこともあって、なかなか興味深い。宇野弘蔵と言えば、「三段階論」や「恐慌論」がよく知られているが、しかしその意味するところについては、必ずしも明らかだと言うわけではない。というわけで、とりわけ、柄谷氏の宇野弘蔵論には、特に「恐慌論」の哲学的意味についての議論には、傾聴に値する内容が少なくない。柄谷氏が東大経済学部の学生になったころは、宇野弘蔵はすでに退官して、講義を受けることはなかったらしいが、それでも教授たちは、ほとんどが宇野派の教授たちで占められており、結局、柄谷氏としてはその宇野派の教授たちの講義がつまらなくて、経済学を捨てて、文学へ転向することになるわけだが、それでも宇野弘蔵の著作、あるいは理論は、よく読み、深く影響を受けたと言う。そこが、経済学を続けたが、マルクス経済学から近代経済学へ転向し、アメリカの大学に留学し、やがて福田恒存という戦後保守主義の代表的思想家を理論的根拠にして、保守思想家に転向する西部氏と、その思想遍歴において微妙に違うところだろう。柄谷氏は、経済学から文学へ転向したわけだが、マルクス、ないしはマルクス主義を捨てたわけではないし、学生時代に熟読したという宇野弘蔵マルクス経済学を捨てたわけでもない。柄谷氏は、文芸評論家としてデビューしてからも、一貫してマルクスを追求しているが、そこへいくと、西部氏は、学生時代の左翼過激派のリーダーとしての体験を自慢するだけで、マルクス、ないしはマルクス主義とは早々と、完全に決別し、無論のこと、宇野弘蔵マルクス経済学とも決別している。つまり、柄谷氏がマルクス経済学や宇野弘蔵マルクス経済学について、今でも真剣に考え続けてきたのに対して、おそらく西部氏は、マルクスマルクス経済学、ないしは宇野弘蔵マルクス経済学について、その思想的内容は記憶しているだろうが、ほとんど深く考えたことはない、と言っていい。どちらがまともな思想家のすることか、判断は微妙だが、僕は、柄谷氏の著作はまじめに読むが、時間の無駄だから西部氏の著作を、斜め読みすることはあっても、真剣に読むことはしない。というわけで、柄谷氏の話には、思想的に読むに値する議論が多く、熟読する意義がある。たとえば、柄谷氏は、宇野弘蔵の「恐慌論」について、こう言っている。「一般にマルクス主義者は、恐慌は資本主義の崩壊、社会主義の到来をもたらすと考えましたが、宇野弘蔵は違った。彼は、『資本論』に書かれているのは、恐慌の必然性である、しかしそれは革命の必然性ではない、というのです。…」「だから、恐慌という現象は景気循環の一環に過ぎない。宇野弘蔵は、マルクスが『資本論』で示したのは、恐慌の必然性であって、革命の必然性や社会主義の必然性ではないといった。一方、社会主義は倫理的な問題である。つまり各人の自由な選択の問題だ。とにかく宇野の考えは、通常のマルクス主義者とはまるで違いました。…」ここで、柄谷氏が言おうとしていることは、宇野弘蔵の「三段階論」の本質に触れていると言っていいが、同時に宇野弘蔵の「恐慌論」の本質にも触れているわけで、つまり、資本主義経済にとって恐慌は必然であり、しかし恐慌の必然性から、ただちに資本主義経済の崩壊、ないしは革命の必然性、社会主義の必然性は導かれない、ということである。ここでは、事実としての恐慌の必然性と、価値、ないしは当為・倫理としての革命の必然性、ないしは社会主義の必然性が、明確に切断されている。宇野弘蔵にとっては、前者が「原理論」であり、後者が、「段階論」、ないしは「状況論(現状分析)」ということになろう。つまり、革命や社会主義の実現は、原理論で説明できるのではなく、あくまでも実践的、倫理的な問題であり、主体的な判断と決断の問題だと言うことになる。では、恐慌は必然的であるにもかかわらず、何故、資本主義は崩壊しないのか、何故、革命は必然的ではないのか。ここから先は、柄谷行人の独自の理論的考察が展開する。それは、何故かというと「国家論」の問題であると言うことが出来る。柄谷氏によるとマルクスの『資本論』には、国家論レベルの議論が捨象されて、純粋に資本主義そのものの分析に終始している。つまり、恐慌の必然性は書かれているが、そこで国家が政治介入してくる、つまり資本主義は恐慌に直面しても国家が経済政策を通して介入することで延命し続ける、というような議論は捨象されている。それは宇野弘蔵も同様である、と柄谷行人氏は言う。(続く)




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