文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

裁判官や弁護士に「歴史の真実」を語る資格はない。

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昨日、大阪高裁で行われた「沖縄集団自決裁判」の判決は、被告側の大江健三郎・岩波サイドの全面勝利で決着したが、このまま終わるはずはなく、結局、最高裁へ舞台を移すことになるだろうが、繰り返して言うけれども、僕は裁判の勝ち負けには興味がない。「沖縄集団自決」問題も、裁判の判決の結果がすべてに決着をつけるわけではない。「沖縄集団自決」そのものに関しては、これからも論争や研究、あるいは資料発掘の作業が延々と続くはずである。つまり裁判官の判決言い渡しで、「沖縄集団自決裁判」には決着がつくかもしれないが、いわゆる「沖縄集団自決」問題が終わるわけでない。さて、僕が、この「沖縄集団自決裁判」に興味を持ったのは、実は、この裁判の実質的な当事者が、大江健三郎曽野綾子という、いわゆる文学者、作家だったことによる。とりわけ大江健三郎の『沖縄ノート』のテクストの一部がメイン・テーマとして取り上げられていたことは、僕のように大江健三郎を読むことから文学や思想への道へ進む契機になった人間としては、この問題が大きな文学的関心を持たざるを得ない問題だったと言っていい。したがって、ずっと裁判そのものにはまったく何の関心もなかったのだが、この「沖縄集団自決裁判」が大江健三郎批判、大江健三郎罵倒、そして結果的に大江文学の全面否定への舞台装置の役割を担っていることを知って、裁判の成り行きと法廷内外の言論活動の重要性に気付き、裁判そのものを無視するわけにはいかなくなった、というわけだ。とりわけ大江健三郎批判の急先鋒が、作家の曽野綾子であり、曽野綾子の『ある神話の背景』であることを知って、『ある神話の背景』なら学生時代、創刊されたばかりの「諸君!」の誌面で読んだことがあり、その時は、ほとんど何の関心も持たなかったのだが、その『ある神話の背景』が大江健三郎批判を主題の一つとしていることを知るに及び、と言っても、実は曽野綾子は雑誌連載中の『ある神話の背景』では一言も大江健三郎に言及していないわけだが、もちろん大江健三郎の「沖縄集団自決裁判」批判をしているわけでもないのだが、要するに曽野綾子大江健三郎の『沖縄ノート』批判は、書籍刊行の時、後から営業戦略上から書き加えられたものだったわけだが、僕としては黙っているわけにはいかなくなったという次第なのだ。つまり、僕が関心を持ったのは、大江批判の思想的・文学的レベルの低さ、大江批判を書き連ねる評論家や弁護士たち、いわゆる右派論客の思想的貧困と劣化に対して、激しい軽蔑と怒りと嫌悪を感じたからであった。僕が尊敬していた右派論客であり、右派思想家であった江藤淳三島由紀夫というような、いわゆる文壇における「大江健三郎の良きライバル」であったような文学者たちが、もし存命であったとするなら、こういう低次元の破廉恥な裁判闘争などはそもそも起こりえなかったであろうし、もちろん右派論壇が全員一致で大江健三郎批判を展開し、大江健三郎を社会的に抹殺しようとする名誉毀損裁判なんぞを集団的に支援するという幼稚な、自虐的な喜劇的一幕も、起こりえなかったであろう、と思ったからだ。ところで、今朝(11/1)の産経新聞の「主張」氏が、「判決」と「歴史の真実」は別だということを書いているが、もしこの言葉が、単なる負け惜しみから出た「負け犬の遠吠え」でないとすれば、その主張に、僕もまったく同感である。「沖縄集団自決裁判」の結果がどうであれ、「沖縄集団自決」をめぐる「歴史の真実」論争は、裁判闘争とは無関係に永遠に続くであろう。そもそも裁判官や弁護士が「歴史の真実」を知っているはずはない。「沖縄集団自決」をめぐる「歴史の真実」を探求するのに、裁判官や弁護士に期待し、彼等に依存した時点で、昨今の右派論壇や右派思想家、右派ジャーナリズムは、思想的にも、人間的にも「負け」ていたと言わなければならない。そして、原告側(赤松嘉次、梅澤裕)弁護団が、最後に藁にをもすがる思いで、手助けを求めて必死にすがり付いた対象が、マンガ右翼・小林よしのりのマンガチックな「沖縄論」と、怪しい証言オタク・宮平秀幸の「トンデモ証言」であったとは、なんとも哀れで、皮肉である。




大江健三郎のコメント
http://www.asahi.com/national/update/1031/OSK200810310080.html

高裁判決についてのコメント   大江健三郎

ベルリン自由大学での講義のためにベルリンに滞在しており、判決を直接聞く
ことができませんでした。いま、私たちの主張が認められたことを喜びます。
私が38年前にこの『沖縄ノート』を書いたのは、日本の近代化の歴史において、
沖縄の人々が荷わされた多様な犠牲を認識し、その責任をあきらかに自覚
するために、でした。沖縄戦渡嘉敷島座間味島で七百人の島民が、軍の
関与によって(私はそれを、次つぎに示された新しい証言をつうじて限りなく
強制に近い関与と考えています)集団死をとげたことは、沖縄の人々の犠牲の
典型です。それを本土の私らはよく記憶しているか、それを自分をふくめ同時代
の日本人に問いかける仕方で、私はこの本を書きました。

私のこの裁判に向けての基本態度は、いまも読み続けられている『沖縄ノート
を守る、という一作家のねがいです。原告側は、裁判の政治的目的を明言して
います。それは「国に殉ずる死」「美しい尊厳死」と、この悲惨な犠牲を言いくるめ、
ナショナルな氣運を復興させることです。

私はそれと戦うことを、もう残り少ない人生の時、また作家としての仕事の、
中心におく所存です。


★「産経新聞ニュース」から。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/081031/trl0810312140024-n1.htm
■大江氏不在の法廷で2度目の敗訴 原告の名誉回復ならず「最高裁でも闘う」 (1/2ページ)
2008.10.31 21:38



 元戦隊長らの「名誉」は再び回復されなかった。31日、大阪高裁の控訴審判決で原告側の控訴が棄却された沖縄集団自決訴訟。ドイツ渡航中の大江健三郎さん(73)が不在の法廷で言い渡された2度目の敗訴判決に、原告側は「勝訴を確信していた。信じられない」と怒りをあらわにし、弁護団は「不当判決だ。最高裁でも闘う」と決意を新たにした。
 大阪高裁202号法廷。この日、原告の元座間味島戦隊長、梅沢裕さん(91)と元渡嘉敷島戦隊長の故赤松嘉次さんの弟、秀一さん(75)はいずれも濃いグレーのスーツ姿で入廷した。梅沢さんはかぶっていたハンチング帽を取り、緊張した面持ちで判決を待った。

 「控訴人のいずれの控訴も棄却する」。小田耕治裁判長が短い主文を読み上げると、法廷内は一瞬、静まり返った。その後すぐに裁判長は退廷した。梅沢さんらは代理人弁護士から耳元で敗訴を伝えられ、ぶぜんとした表情を浮かべた。

 梅沢さんらは落胆が大きく、記者会見には姿を見せなかった。代理人徳永信一弁護士らは会見で「全くの不当判決。重大な人権侵害だ」と憤った。

 控訴審で原告側は、昭和20年当時、軍の伝令役を座間味島で務めた民宿経営、宮平秀幸さん(78)の新証言を証拠提出。村の幹部らから手榴(しゆりゆう)弾などを求められた梅沢さんが断り、忠魂碑前で自決のために集まっていた住民に解散を命じたとの内容だった。

 しかし、2審判決はこの証言を「不自然な変遷があり、明らかに虚言」と退けた。一方、今回も1審判決に続いて、隊長命令の有無については「証拠上断定できない。真実性の証明があるとはいえない」との判断が示された。閉廷後、梅沢さんらは代理人に「事実でないことを書いたものが出版を許されるとはどういうことなのか」と聞き、上告については「もちろんです」と答えたという。

 一方、大江さん自身はベルリンの大学で行っている講義のためドイツに滞在中。大江さん側の代理人弁護士は会見で「言論の自由を尊重した画期的な判決だ」と評価した。

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山崎行太郎「沖縄集団自決裁判」過去エントリーより。


★【沖縄論・曽野綾子論資料1(過去エントリー)】

曽野綾子誤字誤読事件

大江健三郎を擁護する。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071110/p1

■誰も読んでいない『沖縄ノート』。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071111/p1

■梅沢は、朝鮮人慰安婦と…。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071113/p2

大江健三郎は集団自決をどう記述したか? http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071113/p1

曽野綾子の誤読から始まった。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071118

曽野綾子と宮城晴美 http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071124

曽野綾子の「誤字」「誤読」の歴史を検証するhttp://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071127

■「無名のネット・イナゴ=池田信夫君」の「恥の上塗り」発言http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071129

■「曽野綾子誤字・誤読事件」のてんまつ。曽野綾子が逃げた? http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071130

曽野綾子の「マサダ集団自決」と「沖縄集団自決」を比較することの愚かさについて。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071201

曽野綾子の「差別発言」を総括する。 http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071202

曽野綾子の「誤字」は最新号(次号)で、こっそり訂正されていた(続)http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071206

★「宮平秀幸新証言」批判のまとめ……

■現場にいなかった新証言者……宮平秀幸本田靖春に語った「座間味島集団自決の真実」

http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20080310

■「宮平秀幸新証言」はガセネタのだった? 宮平秀幸は「マリリンに会いたい」の飼い主だった。

http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20080309

■「宮平秀幸新証言」はヤラセか自作自演か。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20080307/

■自決か玉砕か……http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20080306/

毎日新聞ですでに証言していた……昔から宮平秀幸は「語り部」だった。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20080305/

アエラよ、お前もか……勉強不足の「アエラ」記者は「保守派沖縄ツアー」に同行していた。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20080304/

世界日報記者よ、もつと沖縄史を勉強せよ。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20080302/

アエラ記者よ、もっと沖縄史を勉強せよ。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20080301/