曽野綾子『ある神話の背景』は歴史的実証に耐えられるか?
僕は、大江健三郎の『沖縄ノート』や曽野綾子の『ある神話の背景』等を素材に、「沖縄集団自決問題」をめぐって「争点」としてクローズアップされている「軍命令はあったか、なかった」とか「歴史教科書に軍命令があったと書くべきか、削除すべきか」というような問題には、さほど、関心がなく、つまり、戦時下で渡嘉敷島や座間味島の守備隊長=指揮官だった赤松某や梅澤某などの「名誉回復」等には何の関心もなく、むろん、僕は、一部の反戦左翼のように、大東亜戦争下の「日本軍国主義」の悪行を摘発し、それを批判することにもなんの関心もなく、というよりも、実は僕の関心は、もっと別のところにあり、それは、具体的に言えば、大江健三郎の『沖縄ノート』をターゲットにして、政治的な大江健三郎批判を繰り返す曽野綾子と、その背後にうごめく保守論壇の面々や保守思想家達、あるいはその支援者達の「思想性」と「政治性」にある。言い換えれば、それは保守論壇の思想的な貧しさという問題である。僕は、南京事件件研究や従軍慰安婦強制連行研究で、歴史研究家や学者、評論家、ジャーナリストたちの果たした役割を高く評価しているが、しかしそういう歴史的研究に煽られ、思想も戦略もなしに付和雷同しつつ、保守論壇を舞台に活動する軽薄な学者、ジャーナリスト、素人研究者たちの最近の言動には批判的である。僕が、たとえば、思想性も戦略性もなしに、言い換えれば、ろくに本も読まず、問題の本質や背景について深く考えたこともなく、歴史観や国家観や憲法改正というような重要で微妙な問題を、いとも気軽にというか能天気にというか、あまりにも安易に語りすぎる前首相・安倍晋三を批判し続けた理由も、実はそこにあった。ところで、今、歴史観や国家観や憲法改正というような重要で微妙な問題を、いとも気軽にというか能天気にというか、あまりにも安易に語りすぎる、その種の軽薄な保守思想家やジャーナリストの言動を象徴的に体現しているのが曽野綾子であり、その支援者達である、と僕は考えている。さて、今、沖縄集団自決問題や大江健三郎の『沖縄ノート』をめぐって、一種のバイブルのような存在として偶像化されているのが曽野綾子の『ある神話の背景』(改題して『集団自決の真実』)なわけだが、はたしてこの本は、多くの人が考えているように、歴史的実証批判に耐えられるような、そういう学問的な、科学的な方法論に依拠した本なのだろうかということになると、僕は、大いに疑問だと思ってるが、その理由は、曽野綾子野の『ある神話の背景』(改題して『集団自決の真実』)が、赤松某、及び赤松部隊隊員たちからの聞き書きが主な情報源になっている書物だが、その中心をなすのが、赤松部隊の実践記録『陣中日誌』であるからだ。では、この『陣中日誌』とは何物なのか。資料批判に耐えられるものなのか。実は、この『陣中日誌』は、『陣中日誌』でもなんでもなく、赤松部隊の隊員の一人が後に書いた、ただの回想録にすぎない。回送録がどういうものかは考えるまでもないだろう。いずれにしろ、曽野綾子の政治的詐術は明らかであり、曽野綾子が、沖縄住民の証言や『沖縄ノート』の言説には手厳しい批判や悪意のこもった罵倒を繰り返すが、赤松某の証言や赤松隊員の陣中日誌には、限りなく甘く、というよりも曽野綾子の『ある神話の背景』は、完璧に赤松側の資料と証言に依存し、準拠したメロドラマになっている。(続)
←この記事にピーンときたら、ワン・クリック、お願いします！
資料1(過去エントリー)
■大江健三郎を擁護する。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071110/p1
■誰も読んでいない『沖縄ノート』。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071111/p1
■梅沢は、朝鮮人慰安婦と…。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071113/p2
■大江健三郎は集団自決をどう記述したか? http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071113/p1
■曽野綾子の誤読から始まった。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071118
■曽野綾子と宮城晴美 http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071124
資料２
■大江健三郎・岩波書店沖縄裁判の争点http://www.sakai.zaq.ne.jp/okinawasen/souten.html
■大江・岩波沖縄戦裁判の支援の会・ブログhttp://okinawasen.blogspot.com/
■大江・岩波沖縄戦裁判支援会 http://www.sakai.zaq.ne.jp/okinawasen/news.html
■曽野綾子の第34回司法制度改革審議会議発言議事録 http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/dai34/34gijiroku.html
■沖縄集団自決冤罪訴訟を支援する会http://blog.zaq.ne.jp/osjes/article/35/
■大江健三郎『沖縄ノート』裁判告訴状 http://www.kawachi.zaq.ne.jp/minaki/page018.html
