文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

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北朝鮮の核実験が意味するもの。


北朝鮮は10月9日午前、核実験を実施した。それに対する日本をはじめとする世界各国の反応はすでにご承知のとおりだが、マスコミ報道を含めて、すべてが何かピントが外れていて、ノー天気な発言や対応に終始しているように見えるが、どうだろうか。つまり昨今の北朝鮮バッシングは、軍事論を含めて、きわめて状況認識が甘く、稚拙で底が浅いということだ。それらの議論や対応が浅薄なのは、実は、北朝鮮サイドからの言い分というものがまったく無視されているからだと思われる。


ところで、僕は、北朝鮮問題が国際政治の重要テーマとして浮上して以来、一貫して、マスコミや軍事評論家や、あるいはネット・右翼の皆さんが考えているのとは反対に、キム・ジョンイルは小泉や安倍ほど馬鹿ではない、と言い続けている。おそらく、今回の国際社会のほとんどすべてを敵に回しての核実験強行にしても、それなりの国際戦略と「深慮遠謀」「深謀遠慮」があるはずである。明日にも北朝鮮が自滅し、自壊、自爆するかのような分析や言論はピントはずれだろう。


ちなみに、たとえば、キム・ジョンイルが父・イルソンから政権を受け継いだとき、西側マスコミ、軍事評論家、国際政治学者のほとんどが、2、3年のうちに、北朝鮮は崩壊すると予言していたはずである。キム・ジョンイルは愚かな馬鹿者である、という人間分析に基づく推測記事であった。言うまでもなく完全にハズレた。


というわけで、経済制裁も国連決議も無力だろう。むしろ、完璧にキム・ジョンイルのペースで進んでいると見ていい。そもそも、「なぜ、北朝鮮は核開発、核実験をしてはいけないのか」という根本的な疑問に誰も答えることは出来ないだろう。インドやパキスタンの例もある。いずれ、なし崩しに「核保有国・北朝鮮」が誕生するだろう。


アメリカは武力攻撃はしない。というより出来ない。アメリカ・ブッシュ政権は、民主党の「米朝直接交渉」の主張に引きずられて、米朝対話路線に政策転換をはかる可能性が高い。ライスの電撃訪朝の可能性もゼロではない。その時、日本政府はどう対応するのか。安倍の戦略的外交とは、所詮、アメリカの後から幼稚園児のようにノコノコとついていくだけだろう。僕は、それに反対ではない。ただ、それなら、国内向けのパフォーマンスとはいえ、政治家としての資質も才能もないくせに、あまり威勢のいい発言を繰り返すのはみっもないからやめろよ、と安倍とその一派に言っておきたい。愚行の尻拭いをするのは国民である。


ところで、かねてより、北朝鮮サイドに立った発言が多いために、「北朝鮮工作員」(笑)ではないかと揶揄されている悪名高い人物がいる。大阪法経大学教授の吉田康彦である。僕としても、この人物をまともに相手にする気はないが、彼の核実験に関する分析と発言は、それに賛成するにせよ反対するにせよ、傾聴に値すると思う。「米国は結局は、北朝鮮との直接交渉に応じざるを得ないでしょう。」という吉田の分析結果としての結論は、かなり重い。


吉田の分析と発言が重いのは、キム・ジョンイルという政治指導者を、評論家や学者、ジャーナリストとしては、例外的に冷静に観察しているからだろう。つまり、吉田の分析は、キム・ジョンイルは馬鹿ではない、という前提から出発している。繰り返すが、僕もまた、キムジョンイルは、小泉や安倍やブッシュほどの馬鹿ではないと思っている。だからこそ、この問題は簡単には解決しないということだ。


ちなみに、北朝鮮の核開発、核実験にいたる資金源は、小泉訪朝、拉致被害者帰国の見返りとして北朝鮮政府が秘密裏に日本から獲得した資金だったという噂話もある。功をあせるあまり、小泉も安倍も、キム・ジョンイルに手玉に取られている可能性の方が確率的には高いだろう。

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北朝鮮の核実験が意味するもの


北朝鮮は10月9日午前、核実験を実施しました。実験の成否、規模など詳細は不明で、今後の精査の結果を待たざるを得ませんが、日本でも地震波を感知しており、小規模ながら地下爆発実験が行われたことは事実で、精査の結果、「核分裂反応」を伴うものであることが実証されれば、これで北朝鮮が名実ともに「核兵器保有国」になったことを意味します。第2回の実験も準備中と伝えられます。

北朝鮮がこの時期に核実験に踏み切ったのは、朝鮮労働党創建記念日である10月10日を翌日に控えて盛り上げたかったからではなく  (その証拠に核実験の”成功”は報告もされていません)、最大の理由は、ブッシュ米政権が強硬路線一点張りで、米朝直接交渉に応じず、金融制裁も解除せず、北朝鮮「封じ込め」政策を変えなかった点にあります。安倍首相の訪中・訪韓など無関係です。

金正日総書記には米国しか念頭にないのです。当面は、11月7日の中間選挙で、米朝直接対話を提唱している野党・民主党に追い風を送ることを狙っています。民主党は「米朝直接交渉」を主張しており、議会で多数派となれば、ブッシュ大統領民主党の声に耳を傾けざるを得ないと計算しています。

国連安保理では、とりあえず経済制裁を盛り込んだ決議案が採択されるでしょうが、北朝鮮としてはその辺は折り込みずみです。安保理決議は国連全加盟国を拘束しますが、それに従わないからといって罰せられるわけではありません。中国も韓国も金正日体制崩壊を望んでおらず、国際世論を意識して一時的に削減することはあっても、全面的に支援を中止することはあり得ません。国連の経済制裁の実効性に限界があることは、フセイン政権下のイラク、南ア、旧ユーゴスラビアに対する経済制裁が「尻抜け」に終わった例からも明らかです。

かといって武力制裁は絶対に不可能です。ブッシュ政権海上封鎖、船舶臨検などを実施する「構え」は見せるでしょうが、核施設や平壌空爆でもしたら、捨て身の反撃を喰らい、多大な犠牲を覚悟せねばなりません。金正日総書記は、そこまで読んで決断したと見るべきです。

北東アジアに核を拡散させ、核保有国を増やしたのは、強気一点張りで北朝鮮の真意を測りかねたブッシュ政権の失政です。米国は結局は、北朝鮮との直接交渉に応じざるを得ないでしょう。【2006年10月13日/関連の論文は「北朝鮮」をクリックして下さい】

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