文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

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ハイデガー哲学で『ドラえもん』を読み解く。世界中の子供たちは、何故、夢中になって『ドラえもん』を読むのか?

dokuhebiniki2014-08-25



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僕は、『ドラえもん』の主人公が、「ドラえもん」ではなく、「野比のび太」であることをも知らなかったような漫画音痴であるが、清水正日大芸術学部教授の「世界文学の中のドラえもん」という哲学的=現象学的な講義を拝聴して以来、漫画『ドラえもん』に、哲学的な深い興味を持つようになった。


清水正は、「ドラえもん」が机の引き出しの中から登場する以前ののび太の境遇を、つまり「のび太」が置かれていた悲惨で、不幸な状況、ようするに「実存的=危機的状況」を、「第一話」をテキストに分析する。「のび太はすでに死んでいる」と。漫画『ドラえもん』は、そこにドラえもんが現れ、「死んでいる『のび太』を、『ドラえもん』が生き返らせる」ところから始まる、と。漫画『ドラえもん』は、「野比のび太」の「死と復活の物語」である、と。


僕は、ここから、ハイデガー存在論の哲学を連想した。そして、「ハイデガー哲学で『ドラえもん』を読み解く」ことが可能だと思うようになった。


僕は、清水正の『ドラえもん』講義を拝聴して以来、二三の漫画を読んで見たが、まったく関心を持てなかった。そういう時、これは、原作者「藤子・F・不二雄」の作品を、「二次創作」したとかいうものだが、「ドラえもん最終編」という動画をネットで見た。僕は、不思議なことに、この二次創作として制作された「ドラえもんの最終編」に感動した。


著作権問題で裁判沙汰にまで発展したらしい、この二次創作は、ドラえもんが、「未来の国」へ帰って行く物語(電池切れで動かなくなる?)であった。言い換えれば、のび太が、元の実存的=危機的状況に突き落とされる物語であり、そこからのび太が、どうやって這い上がっていくか、の物語だった。「のび太が、元の実存的=危機的状況に突き落とされる物語」・・・。僕は、そこに感動したのである。


ハイデガーは、ニーチェからの影響もあって、プラトンアリストテレス以後のギリシャ=ヨーロッパ的「存在の形而上学」が、「存在忘却形而上学」である 、と批判する。では、ハイデガー哲学で、「存在」とは何か。ハイデガーによれば、プラトン=アリストテレスは、存在を、「制作されたもの」「被製作性」と見ているが、ハイデガーは、それを、「本質(何であるか)」を優先する形而上学であるとみなす。逆にハイデガーは、存在は、「制作されたもの」ではなく、自ら「生成するもの」だと考えている。ハイデガー哲学では、「存在」=「生成」なのだ。


同じように、『ドラえもん』もまた、第一回目と最終回(最終編)を除いて、「存在忘却形而上学」=「存在忘却の物語」であるように見える。言い換えれば、第一回目と最終回においては、ハイデガー的な「存在=生成」が描かれているように見える。そこには、「ドラえもん」=「製作者」=「神」はいない。「のび太」は、誰にも、何処にも、頼るべきものはない。「のび太」は自力で、「のび太」にならざるを得ない。つまり「実存的決断」をせざるをえない状況に追い込まれている。


ジャン・ポール・サルトルは、ハイデガー存在論哲学から深い影響を受けて、「実存は本質に先立つ」と言った 。戦後、フランスや日本で、一世を風靡した実存主義哲学である。この言葉こそ、まさしくハイデガーの存在哲学の分かりやすい要約のように見える。しかし、ハイデガーは、「実存は本質に先立つ」というサルトルの言葉には、賛成ではなく、むしろ批判的だった。「実存」と「本質」を入れ替えただけでは、プラトン=アリストテレス的なヨーロッパの伝統的存在論を乗り越えることはできない、というのだ。ハイデガーは、「実存ー本質」という二元論的思考そのものが、廃棄されなければならない、と言いたかったのだろう。


サルトルハイデガーの対立はともかくとして、便宜上、サルトルの「実存は本質に先立つ」という言葉について考えてみよう。「実存は本質に先立つ」とは、現実存在は、つまり実存は、本質存在に先立つ、ということだ。プラトンイデア論の如く、「である存在」としての本質存在が先ずあり、その後に、本質存在が、具体的に現実化したものが、「がある存在」としての現実存在である、というのが、プラトン=アリストテレス的な「存在」であるとすれば、サルトルのいう存在は、逆である。


ハイデガー=サルトル的に言えば、「ドラえもん」なきのび太は、実存的であり、「ドラえもん」によって、様々な苦境を助けられ、保護されているのび太は、本質的存在である。「ドラえもん」とともに生きるのび太は、実存的=危機的状況に直面する必要はない。「ドラえもん」が現れる以前ののび太と、「ドラえもん」がのび太の前から去って行った後ののび太は、実存的=危機的状況に追い込まれている。言い換えれば、のび太は、現実存在として、つまり実存として生きていかざるをえない。


さて、世界中の子供たちは、何故、夢中になって『ドラえもん』を読むのか?「ドラえもん」の登場によって、実存的=危機的状況から脱することのできた「のび太」に、自分を重ねて、共感しているのか ?つまり、平和で、のどかな、楽しい「ドラえもん=のび太」的生活に共感しているのか?僕の考えでは、そうではない。大人たちならとかく、子供たちが、安定した、平和な日常生活を望んでいるとは思えない。


世界中の子供たちの前には、言うまでもなく「ドラえもん」的存在はいない。子供たちは、両親を初めとして、周囲の大人たちによって、護られ、保護されているように見える。だが、現実の子供たちは、世界に放り出され、荒野に一人立ち、将来への不安と恐怖に怯えながら、自分の無力を自覚するが故に、泣き叫ぶしかない存在である 。子供たちの周囲には、「ドラえもん」はいない。子供たちは、その実存的=危機的状況を、無意識のうちに知っている。


つまり、子供たちは、ハイデガー的な存在論の世界で生きている。大人になるに従って、プラトン=アリストテレス的な伝統的存在論、つまりギリシャ=ヨーロッパ的な「存在忘却形而上学」に洗脳され、取り込まれて行くのである。大人になるに従って、『ドラえもん』に共感も感動もしなくなって行くのは、そのためだ。


(続く)
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清水正ブログ http://d.hatena.ne.jp/shimizumasashi/
清水正教授の『ドラえもん』講義(京都造形大学)
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp

■『ドラえもん』とドストエフスキーを講義する清水教授。


■世界文学の中の『ドラえもん
『世界文学の中のドラえもん』は電子書籍イーブックジャパンで読むことができます。ここをクリックしてください。http://www.ebookjapan.jp/ebj/title/190266.html


清水正の本来の専門はドストエフスキー。前代未聞の『ドストエフスキー論全集』を刊行中。



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曽野綾子が『ある神話の背景』(『沖縄集団自決の真実』改題)の「誤字=誤植」を訂正した改訂版を出したらしい 。しかし、曽野綾子の改竄=捏造は、誤字=誤植の訂正ぐらいで、解消されるわけがない。さらに決定的な改竄=捏造疑惑が指摘されている。疑惑だらけの『ある神話の背景』は、絶版にするしかないだろう。



曽野綾子の『ある神話の背景』は、全面的に、赤松部隊の制作した「陣中日誌」に依存している。だが、この「陣中日誌」は1970年に赤松部隊隊員=谷本小次郎によって全面的に書き換えられた、歴史的資料価値ゼロの「改竄=捏造文書」であった。



■ここに一枚の写真がある。赤松嘉次や赤松部隊の隊員たちが、テーブルを囲んで打ち合わせをしている写真である。左上に、曽野綾子の顔も見える。曽野綾子は、『ある神話の背景』の中で、赤松部隊の隊員たちとは、「個別に」あったと書いている。「集団で」会うと口裏を合わせるから、複数では合わわなかった、と。これが、真っ赤な大嘘である。この写真が、証明している。曽野綾子は、事前に、赤松部隊の面々と集団で会い、綿密に打ち合わせをしているのだ。




大江健三郎の『沖縄ノート』を批判した曽野綾子の『ある神話の背景』(『沖縄集団自決の真実』と改題)は、右翼=保守派のバイブルだったが、その『ある神話の背景』そのものも、改竄=捏造文書「戦中日誌」にもとずく改竄=捏造文書だった、ことを実証的=論理的に暴露した本・・・。(⬇)



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現代日本の論壇や科学ジャーナリズム、アカデミズム・・・を地盤沈下させた「思想的劣化」は、どのようにして起きたのか?
曽野綾子大批判』を読んだら、『保守論壇亡国論』も。




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