文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

「曾野綾子研究18」ー「曾野綾子自伝」を読む。私は知らなかったが、曾野綾子に自伝があるらしいという話を聞いた。早速借りて読んでみた。自慢話と身辺雑記で、くだらない 内容だったが、一箇所だけ、『ある神話の背景』(『沖縄戦 渡嘉敷島 集団自決の真実』)と「大江健三郎裁判」に関する、注目すべき文章があった。その文章を読むと、曾野綾子は、まだ「罪の巨塊(罪の巨魁)」の誤読の意味を理解できていないようだということが分かる。それとも死ぬまで、知らぬぞんぜぬ ・・・で押し通すつもりなのか?

2012年、『この世に恋して』という自伝の中で、曾野綾子は、大江健三郎の『沖縄ノート』に触れて、こう書いている。

それから私はこの問題について手に入る限りの資料を集めて読み始めたのです。その中に大江健三郎氏が書いた『沖縄ノート』という本もありました。それには
赤松隊長のことを「罪の巨塊」と書いてありました。(注略)
集団自決を命令を出したと言われるこの指揮官は罪の巨塊である、という大江氏の判断は衝撃的でした。それまでの私は人生で、自分を含めて、ケチな悪さをした人や意識しないで人に迷惑をかけている人はたくさんいる、という自覚がありましたが、まだ罪の巨塊と言われるほどの人物を見たことがなかったのです。私にも物見高い俗物性がありますから、そういう人を純粋に見てみたいと思いました。これだけの罪に対する評価は神にしかできないものです。なぜなら私たちは他人を神のような明確さで見抜くことができないのですから。
(曾野綾子『この世に恋して』2012/12/27。ワック株式会社。)

「2012年」だから、明らかに裁判決着後である。つまり「2012年」ということは昨年であり、裁判からは4、5年たっていることになる。大江健三郎が法廷で、曾野綾子の誤読を指摘したのは2007年だった。その後、保守論壇での「大江健三郎批判」の言説も「沖縄集団自決問題」の言説も、形勢不利と見たらしく、一斉に消滅した。4、5年も経てば、「大江健三郎批判」の言説も「沖縄集団自決問題」も、その詳細は忘れられる頃と思われる。曾野綾子が、2012年、堂々と発言し始めたのも理解できないわけではない。曾野綾子の自慢話をそのまま信じる読者も少なくないだろう。しかし、そうは問屋が卸さない。2012年という時点でも、まだ曾野綾子が、「罪の巨塊」と「罪の巨魁」の意味の区別ができていないことが、分かる。つまり、いわゆる「曾野綾子の誤読」は、依然として続いていることが明らかである。

それから私はこの問題について手に入る限りの資料を集めて読み始めたのです。その中に大江健三郎氏が書いた『沖縄ノート』という本もありました。それには赤松隊長のことを「罪の巨塊」と書いてありました。

さらに、

まだ罪の巨塊と言われるほどの人物を見たことがなかったのです。私にも物見高い俗物性がありますから、そういう人を純粋に見てみたいと思いました。

これらの文章から、明らかに、曾野綾子は、「赤松嘉次」と「罪の巨塊」を同一視している。しかし、少なくとも大江健三郎の文章は、この二つを同一視していない。「赤松嘉次」は「罪の巨塊」ではない。「罪の巨塊」は、赤松嘉次らが、自決命令を出したか出さなかったかはともかくとして、集団自決した住民の「死体」のことだ。大江健三郎が、法廷で証言したように、曾野綾子は、大江健三郎が、「罪の巨魁」(大悪人?)と書いたと「誤読」しているのだ。すでに2007年の「大江証言」で、多くの人は理解したはずだ。この「罪の巨塊」(物体)を「罪の巨魁」(大悪人)と勘違いした「誤読」を理解できず、未だに「赤松嘉次」と「罪の巨塊」の違いを理解できていないのは、曾野綾子だけだろう。
では、大江健三郎はどう書いたのか。

慶良間の集団自決の責任者も、そのような自己欺瞞と他者への欺瞞の試みを、たえずくりかえしてきたということだろう。人間としてそれをつぐなうには、あまりにも巨きい罪の巨塊のまえで、かれはなんとか正気で生き延びたいとねがう。かれは、しだいに希薄化する記憶、歪められる記憶にたすけられて罪を相対化する。つづいてかれは自己弁護の余地をこじあけるために、過去の事実の改変に力をつくす。・・・・
(『沖縄ノート岩波書店)

「・・・あまりにも巨きい罪の巨塊のまえで、かれはなんとか正気で生き延びたいとねがう」・・・・・・と大江健三郎は『沖縄ノート』で書いている。この文章から、「罪の巨塊」が、「かれ」(赤松嘉次)でないことは自明である。「・・・罪の巨塊のまえで、かれは・・・」とあることからも、明らかなように、文法的にも「罪の巨塊」が、「かれ」(赤松嘉次)であるはずがない。確かに、いかにも大江健三郎的な難解な文章であるから、大江健三郎の文章や小説を読み慣れていない人の中には、「誤読」する人も少なくないだろう。しかし、前後の文脈から考えても、曾野綾子的読み方が「誤読」以外の何物でもないことは明らかだ。
(続く)



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『「沖縄集団自決裁判論争」論文集』
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資料1(過去エントリー)
大江健三郎を擁護する。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071110/p1
曾野綾子と赤松某、及び赤松部隊隊員たちとの合同写真が意味するもの。
http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071226/
■誰も読んでいない『沖縄ノート』。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071111/p1
■梅沢は、朝鮮人慰安婦と…。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071113/p2
大江健三郎は集団自決をどう記述したか? http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071113/p1
曽野綾子の誤読から始まった。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071118
曽野綾子と宮城晴美 http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071124
曽野綾子の「誤字」「誤読」の歴史を検証する。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071127
■「無名のネット・イナゴ=池田信夫君」の「恥の上塗り」発言http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071129
■「曽野綾子誤字・誤読事件」のてんまつ。曽野綾子が逃げた? http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071130
曽野綾子の「マサダ集団自決」と「沖縄集団自決」を比較することの愚かさについて。http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071201


資料2
大江健三郎岩波書店沖縄裁判の争点http://www.sakai.zaq.ne.jp/okinawasen/souten.html
■大江・岩波沖縄戦裁判の支援の会・ブログhttp://okinawasen.blogspot.com/
■大江・岩波沖縄戦裁判支援会 http://www.sakai.zaq.ne.jp/okinawasen/news.html
曽野綾子の第34回司法制度改革審議会議発言議事録 http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/dai34/34gijiroku.html
■沖縄集団自決冤罪訴訟を支援する会http://blog.zaq.ne.jp/osjes/article/35/
大江健三郎沖縄ノート』裁判告訴状 http://www.kawachi.zaq.ne.jp/minaki/page018.html
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