文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

TBSは大誤報「目撃証言報道」に責任をとったのか?

さて、ここで、「何故、小沢起訴は遅れるのか」という問題を続けようと思うのだが、少しまわり道をする。というのは、いわゆる小沢事件、あるいはその前提となる大久保秘書事件と石川元秘書事件において、「権力による事件の捏造」、つまり「検察の暴走」という問題が、佐藤優鈴木宗男植草一秀等、いわゆる「国策捜査」によって逮捕された被害者達の証言や分析によって、次々に暴き出され、最終的には「村木冤罪事件」において検察官が逮捕されるという前代未聞の「検察スキャンダル」へと発展していくわけだが、ここで、この一連の事件において、忘れてはならない問題として、フリージャーナリストを含む「マスコミ報道」の問題がある。最近、フリージャーナリストたちの一部が団結し、大手マスコミの「記者クラブ制度」に対抗する形で、ネットや動画を駆使した「小沢擁護論」的報道を始めたようであるが、そしてその歴史的意義は認めないわけではないが、彼等、フリージャーナリストたちも、本質的には「マスコミの一部である」という事実を忘れてはならない。彼等、フリージャーナリストこそ、実は、「マスコミ」に依存し、「マスコミ」のオコボレを落ち穂拾いしながら、「マスコミ」周辺に巣くう「弱い存在」であるが故に、一番、権力や時代の風潮に流れやすい、言い換えれば「洗脳」されやすく、「付和雷同」しやすい存在である。つまり、最近のフリージャーナリストたちによる「小沢擁護報道」も、「みんなで渡れば怖くない」的動機や「小沢擁護論」の方がカネになりそうだ、というような付和雷同的要素がないとはいえない。彼等がよく話題にする大手マスコミ主体の「記者クラブ制度」が、マスコミ問題のすべてではない、つまり、それはマスコミ問題における諸悪の根源ではない、ということだ。実は、「小沢バッシング報道」の先陣を切っているのもフリージャーナリストたちである。彼等にとっては、小沢バッシングに荷担することも、小沢擁護論的報道に荷担することも、ジャーナリストの思想や良心の問題といよりも、「メシの種」「金蔓」の問題が大きいということだ。さらに言えば、小沢事件報道で、官僚や検察のパシリ役として暗躍し、リーク情報やバッシング報道に狂奔しているのも、多くはフリージャーナリストたちである。フリージャーナリストが置かれている不安定な現実を忘れてはならない。その意味で、フリージャーナリストと、「一銭にもならない無償労働」を覚悟の上で、あるいは趣味として「小沢擁護論」なり、「小沢バッシング」なりを、日夜、繰り返してそれなりの社会的影響力を持つにいたった無名や匿名の「ブロガー」や「ツイッター」たちとは、その社会的、思想的な存在の位置が異なるのである。「大手マスコミ批判」や「記者クラブ制度批判」に夢中になるあまり、フリージャーナリストたちの言動を過剰に美化したり、あるいは彼らの活動に過大な幻想を持つべきではない。彼ら、フリージャーナリストたちがどれだけ反体制的であり、反権力的であろうとも、その言論や活動もまた「商品」であり、「商品交換」の論理が貫徹しているのである。「週刊朝日」や「週刊ポスト」を先頭に各週刊誌が、こぞって、急速に「検察批判」的報道や「小沢擁護」的報道へと変身・転向しつつあるのも、その具体例である。そこにあるのは「互酬の論理」や「贈与の論理」ではない。あくまでも資本主義的な「商品交換」の原理である。「売れる」とわかれば、「小沢一郎インタビュー」でもなんでもやるのが、フリージャーナリズムを含めてのマスコミの存在本質である。勘違いしてはならなない。さて、話を元に戻す。TBSが、2010年1月27日(水曜日)、昼と夕方と夜のニュース番組で、

「2004年10月15日に、水谷建設に近い関係者という男性が、石川知裕衆院議員の5000万円授受の瞬間を目撃した…」

という衝撃内容を大きく報道した。ところが、この衝撃的なスクープ報道の続編も検証番組も、その後、まったく放送されていない。真相はどうなのか。誤報だったのか。とすれば、世紀の大誤報、大捏造報道ということになるわけだが。TBSの番組に登場した「水谷建設に近い関係者」という本人に直撃すると、報道内容と話が「異なる」という。それならば、文字通りTBSの「大誤報」ということで決着がつくわけだが、それにしても、何故、TBSは、報道機関としては命取りになるような、このような幼稚・稚拙な大誤報をやらかしてしまったのか、真相はわからない。おそらく、報道現場の暴走というレベルの問題ではなく、TBS全体が、あるいはマスコミ全体が関連するところの、なんらかの政治的背景があるのだろう。その証拠に、この「TBS大誤報事件」を追跡取材するマスコミは皆無である。以下は、この問題を追跡した例外的なメディアである「日刊ゲンダイ」の記事である。

日刊ゲンダイ 2010年2月6日(5日発行)
TBS“スクープ報道”が問題化!
石川議員へのウラ献金5000万円受け渡し「目撃した男性が核心証言」
証言男性が本紙取材に「04年10月15日とは言ってない」




 「小沢捜査」終了で残った大きなナゾ――。水谷建設から小沢サイドに渡ったとされるウラ献金1億円疑惑だ。とくに04年10月の5000万円は、「土地取引4億円の一部に使われた」と検察が目をつけ、新聞・テレビは連日、大疑惑のごとく報じた。

 だが、「5000万円ヤミ献金」は本当にあったのか。TBSテレビが流した「ウラ献金疑惑、居合わせた人物が核心証言」のニュースが、いま問題になっている。

 このニュースが放送されたのは1月27日(水曜日)。昼と夕方と夜のニュース番組で大きく取り上げられ、映像が流された。

 水谷建設に近い関係者という男性が、石川知裕衆院議員の5000万円授受の瞬間を目撃したという衝撃内容だ。

〈疑惑の舞台は都内のホテル喫茶店。04年10月15日のことだ〉――こんな説明が入り、ウラ献金受け渡し現場のホテルの喫茶店内の映像や見取り図がイラストで詳しく示される。

 〈しばらくすると、スーツを着た1人の長身の男が現れた。石川知裕衆院議員だ〉

 〈(水谷建設の)元社長らの正面に腰掛けた石田容疑者。ここで5000万円が渡されたという〉との説明も。

 記者と男性証言者の一問一答は具体的だ。

記者「紙袋の中は現金だけ?」
男性「上に新聞があった」
記者「袋は1個? 袋は5000万円?」
男性「5000万円」記者「現金をどういうふうに渡したのか?」
男性「紙袋にお土産用みたいな、絵が描いてあって外側がナイロンでビニールで保護してあるようなやつ」……。

 現金授受の現場にいた第三者の目撃証言となれば、5000万円疑惑の信憑性は高くなる。起訴された石川議員の裁判でも、検察側証人として出廷する可能性も高い。その意味でメガトン級のスクープだ。

 ところが、なぜか、どこ目撃証言はその後、大きなニュースになっていない。地検特捜部が有力証拠にしたという報道もない。不思議だ。あの二ュースは何だったのか。司法記者たちの間だけでなく、民主党内でもこのニュースは関心を集め、「調査しないといけない」「石川議員は長身じゃない。最初からおかしいと思った」と問題視する動きになっている。

 真相はどうなのか。TBSの番組に登場した「水谷建設に近い関係者」という本人に直撃してみた。その一問一答は、これまた衝撃だった。

――04年10月15日にホテルに行ったのか。

 「04年10月15日とは言っていない。暑くて酒を飲もうとホテルに立ち寄った。水谷の当時の川村社長、小野専務がいた。その日はホテルのクーラーが涼しかったことは覚えている」

――カネの受け渡しは見たのか。なぜカネと分かったのか。

 「自分も(カネを)運んだ経験があるからだ」
「正直に言うと、知人から『聞いた』話も番組に入っている。あんなに大きく取り上げられたから、ビックリして知人に確認したが、『話は間違いない』と言っていた」

――本当に04年10月15日なのか。

 「だいたい5、6年前のことを覚えている人はいないでしょう。1週間前の夕食さえ覚えていないのに」

――石川議員を見たのは確かなのか。
 「石川は以前、(別の)グランドパレスホテルで見たことがある」

  ※  ※  ※

 10月15日があいまいとは驚いた。しかも、5000万円を見たわけでもないのだ。それが、どうしてああいうニュースになるのか。

 TBS広報部の回答はこうだった。

「私どもが取材した方は、放送した通りの証言をしており、放送内容には何ら間違いはありません」

 そこまで自信があるのなら、もう一度、目撃男性を取材して、何か本当なのか、TBSは放送した方がいい。今回の小沢幹事長の事件では、大マスコミの報道姿勢が大きな問題になっている。衝撃ニュースを流して、それで終わりでは済まない。

もう一度取材して何が本当なのか放送すべきだ。

この「日刊ゲンダイ」の記事を読むまでもなく、TBSの「目撃証言報道」は大誤報だったと見ていい。情報源が誰なのか、あるいは何処なのかは分からないが、TBSが、「小沢バッシング報道」に熱中するあまり、不用意にこのガセネタに飛びついて、天下に大恥をさらすことになったことだけは明らかである。以下は、TBSが放送した番組内の映像である。おそらくテレビを見た多くの国民の脳裏には、多かれ少なかれ、この映像が刻み込まれたことであろう。ある意味では、この映像を流した時点で、TBSの目的を達成していたのかもしれない。だからこそ、誤報であろうと何であろうと、反省も検証も不要なのであろう。そしてTBSの「小沢バッシング報道」は、今日も、性懲りもなく繰り返されるのである。言うまでもなく、TBSの背後には「何か」がいる。TBSが大誤報を流した背景には、検察が「創作」していた「物語」があるのかもしれない。




(続く)

さて、石川知裕元秘書は、1月15日に逮捕されたが、TBSが現金受け渡しの「目撃証言映像」を報道したのは1月27日である。「日刊ゲンダイ」が行った保釈後の石川知裕自身への「独占インタビュー」を見てみよう。

日刊ゲンダイ本紙が石川議員に独占インタビュー

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政治資金収支報告書虚偽記載で起訴された石川知裕衆院議員(36)が保釈後、初めて日刊ゲンダイ本紙の単独取材に応じた。検察の取り調べはどうだったのか。形式犯なのに起訴された悔しさは? 石川議員の口からは意外なセリフが飛び出した。

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「このままでは死んでも死に切れない」

石川議員の話を聞いたのは議員会館の事務所だ。部屋にはベビーベッドが置いてある。子供が生まれたばかりの女性秘書のためである。検察は乳飲み子がいる女性秘書も呼んで、長時間の聴取をした。本人は逮捕、起訴され、今後、長い裁判が待っている。まず、検察が憎くないのか。

――「いえ、私が許せないのは水谷建設の方です。なぜ、私に5000万円を渡したというウソをついたのか。彼らは東京地検特捜部もだましたのです。なぜ、そんなことをする必要があったのか。水谷功氏の脱税を隠すためなのか。それとも誰かが絵図を描き、私や小沢幹事長を貶(おとし)めようとしているのか。背後にどんな力が動いているのか。真相が判明しなければ、死んでも死に切れません」

石川は1月15日に逮捕された。直前にガサ入れがあり、その後もきちんと聴取に応じていた。それなのに、国会開会直前の逮捕。国会関係者も驚いた。

―― 「13日に強制捜査があり、14日にも取り調べられ、15日も行く予定でした。でも、連日はきついし、地元に戻ろうかとも思ったので、弁護士が連絡し、15日は回避してもらい、その代わり16、17日に行くことにしたのです。ところが、15日の夜7時になって、どうしても今から会って話をしたいと言ってきた。これは逮捕だなと思いました。検事が帝国ホテルの1階まで迎えに来てくれて、午後10時3分に逮捕されました。逮捕前は水谷建設からのお金のことばかりを聞かれました。ずっと事実ではありませんと申し上げた。そうしたら、政治資金収支報告書の虚偽記載で逮捕になったのです」

「自殺の恐れ」は、うかがえない。水谷の裏献金で口を割らないものだから、吐かせるために逮捕した。検察権力の横暴、不当な取り調べと言うしかないが、石川は実に人がいい。

―― 「いや、自殺の気はなくても、知人や検事に弱気の発言をした事実はありますからね。検察のご判断なのでしょう。取り調べの検事さんは人間的に優れていました。そういう人が特捜部の検事になるのでしょう。私は2人の検事から聞かれましたが、普段であれば、一杯やりたいな、という人たちでしたよ」とか言うのである。

連日9時間に及んだ聴取の怖さ
検事が声を荒らげたことは? 「小沢はもう守らんぞ」と脅されたことは?

――「取り調べの中身については言わない約束をしたので、ご想像に任せますが、取り調べは紳士的で、怒鳴られたのは1、2度です。ただ、肉体的にはつらかった。取り調べは午前中1時間、午後に3時間、夜に5時間。毎日9時間前後に及んだのです」

一番、つらかったことは?

―― 「何度言っても裏献金の事実がないことを信じてもらえなかったことです。『証拠はそろっている、あとはあなたが真実をしゃべるだけだ』と言うのです。私は水谷建設が私に金を渡したという10月15日のアリバイを示せなかった。だから、堂々巡りになるのは仕方ないのかなとも思いましたが、許せないのは裏献金話を捏造した水谷です。水谷の幹部とは懇親会で名刺交換をした程度だし、功元会長については、捜したけど名刺もなかった。それなのに、現金を渡した日付まで指定して、私にアリバイがあったら、どうするつもりだったのでしょうか」

洪水のようなリーク報道に怒りはないのか。中には金の受け渡し現場を見たという第三者の証言を報じたテレビもあった。
(⇒1/27にTBSで昼と夕方と夜に放映された)

――「あれはひどいです。何らかの抗議、訴えることを検討しています」

それでも、一連の責任を取り、離党を余儀なくされた。今後は孤独な裁判が待っている。さぞ、悔しいのではないか。裏金でなければ、収支報告書の修正で済む話ではないか。

―― 「虚偽記載については公判で明らかにしていきますが、反省すべきところもあります。離党については北海道11支部の人々が『離党すべきではない。強制的に離党させられるのであれば、我々も集団離党する』と言ってくれた。でも、私は離党せざるを得ないと思っていました。小沢幹事長とは会っていません。接触が禁止されているわけではありませんが、会えば何かと誤解されますから……」

サバサバと吹っ切れたような表情で語る石川だったが、その胸中は察するに余りある。決して検察批判を口にしなかったのは、それだけ、検察の怖さを思い知らされたからなのだろうか。

日刊ゲンダイ 2010/02/19 掲載)

日刊ゲンダイ」の二つの記事と、TBSの「目撃証言報道」を読み比べてみると、何かが見えてくるはずである。TBSによる石川元秘書と水谷建設側の現金授受場面の「目撃証言報道」は、明らかに検察の描く「物語」を補強し、捏造された物語を現実化するものだったということである。





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