文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

山城むつみの『ドストエフスキー』を読みながら。ドストエフスキー文学は「政治運動」であり「革命運動」であった。

山城むつみという文藝評論家がいる。最近、すっかり存在感をなくしている文藝評論家という存在だが、その中で、例外的に頑張っている文藝評論家の一人が山城むつみである。その山城むつみが、文芸誌に飛び飛びに発表してきたドストエフスキー論を、一冊の本にまとめたらしく、ドストエフスキー研究家の友人・清水正日大芸術学部教授が、最近、珍しくまとしもなドストエフスキー論だと推奨し、今度、機会があればこの本について対談でもしようかと言っていたので、興味をそそられて読んでみることにした。山城むつみドストエフスキー論が、「文学界」という文芸誌に発表され始めた当初は、僕も真剣に読み、それなりに面白かったので、「月刊・文藝時評」で取り上げたこともあるのだが、その後、どういうわけか、次第に関心を失っていた。山城むつみによると、その後、七年間かかって、一冊の本にまとめるだけのドストエフスキー論を書き続けてきたということらしい。というわけで、これから、冬休みを使って、かなりボリュームのあるこの『ドストエフスキー』を読もうと思っているところだ。僕は、ドストエフスキーの作品を読むことは大好きだが、ドストエフスキー論やドストエフスキー研究など、いわゆる解釈され、論者によって脚色されたドストエフスキーには、小林秀雄の「ドストエフスキーの生活」や清水正の「ドストエフスキー論全集」、佐藤優の「ドストエフスキーの預言」(「文学界」連載中)など、わずかを例外としてあまり興味がない。何故か。それは、やはりドストエフスキー文学が、安易な文学的解釈や文学的分析を超えているからだ。さて、山城の『ドストエフスキー』を読み始めて、僕が、何故、山城の『ドストエフスキー』に関心を持ち始めたか、そして何故、次第に関心を失っていったかを、思い出した。僕は、山城の最初のドストエフスキー論として、この本の序章に収められている「二葉亭四迷バフチン」を読み、それなりに感動したことを覚えている。山城は、この最初のドストエフスキー論で、かなり重大な問題を指摘していて、僕はそれに共鳴したのであった。山城は、ドストエフスキーの『罪と罰』の翻訳者として知られる内田魯庵と、ロシア文学を土台に近代日本文学の開拓者となった二葉亭四迷とを論じながら、ドストエフスキー文学が、文学という枠に収まりきらず、それは政治運動や革命運動の領域にまで及んでいるということを指摘している。僕は、その指摘に共鳴したのだが、その後の山城のドストエフスキー論に関心を失ったのは、山城のドストエフスキー論が、「文学」や「芸術」のレベルに自閉してしまっているように見えたからだ。山城は、当初、こう書いていた。

 魯庵はこの時点ではまだ二葉亭と会ってもいないのである。もちろん、人づてに聞いてはいた。二葉亭は哲学者である、と。ただ魯庵はこの小説家が「哲学者」と評されるのに「奇異な感じ」を抱いていたのである。しかし、今、『罪と罰』を読み、かつて覚えのない甚深な感動を与えられたそのことが腑に落ちた。同時に二葉亭を思い出したとはそういうことだったのだ。だが、なぜ「哲学者」で腑に落ちたのか。「こういう厳粛な敬虔な感動はただ芸術だけでは決して与えられるものではない」。魯庵を感動させたものは、「芸術」の域を超えるものだったのだ。それは「哲学」だった、と断定するのは、むろん正しくない。『罪と罰』読後、魯庵が二葉亭と並べて憶い浮かべたもう一人の意外な人物、ステプニャークは、一八七八年一月のヴエーラ・ザスーリチによるトレーポフ将軍狙撃事件に続いて同年八月に憲兵司令官メゼンツォフを暗殺したナロードニキである。(中略)それでこのテロリストを連想したのだが、魯庵が『罪と罰』に「哲学者風」のみならず「革命風」を読んで震撼されているということは注目に値する。これが、芸術だけでは与えられないと彼が評した感動の実質だった。(註ー魯庵が)二葉亭とステプニャークを想起したのはそこにおいてだったのである。

 僕は、山城が書き始めたドストエフスキー論のこの一節に深く感動したことを覚えている。ドストエフスキー文学の本質は、「哲学」であり「政治」であり「革命」だったという指摘に共鳴したのである。しかし、繰り返して言うが、その後の山城のドストエフスキー論の続編は、その指摘と、そして読者の期待に対して充分には応えていない。しかしながら、この「ドストエフスキー文学の本質は、『哲学』であり『政治』であり『革命』だった」ということを指摘出来ただけでも、この本の存在価値はあると、僕は考える。
(<続>。以下は、有料メルマガ『週刊・山崎行太郎』で…。)



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