文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

保守論壇には馬鹿が多過ぎる。

「諸君!」五月号掲載の、柏原竜一と称する人物の書いた「佐藤優ーそのロシア人脈とインテリジェンスへの疑問」を読んだが、あまりにも馬鹿馬鹿しい内容ので、呆れかえって、途中で投げ出した。今売りだし中の論客・佐藤優を徹底的に批判するのはいいが、しかし、やはり批判にも思想的、学問的なレベルというものが必要だろう。この論文というかレポートというか、要するに小学生が書いたような幼稚・稚拙な作文は、僕の読んだ印象では、共産党創価学会ゴーストライターが書きそうな「アジビラ」レベルの駄文である。批判のための批判、揚げ足とり、支離滅裂な罵倒…に終始している。たとえばこの論文のメインテーマは、佐藤優が、外務省職員として語学研修留学したモスクワ大学での交友関係に、スパイ疑惑、ないしはハニートラップ疑惑があるというものだが、そこに「サーシャ・カザコフとの出会いのエピソード…」とあるから、すっかかり僕などは、「美人女子大生サーシャとの出会いのエピソード…」かと思っていたら、なんと佐藤優が親しく交遊した「サーシャ・カザコフ」とは、糞真面目な男子学生であり、敬虔なキリスト教徒である、と言う。笑い話にもならないが、柏崎竜一と称するこの自称「情報史研究家」は、ここから、KGBの罠に嵌められたフランスの「ドジャン大使ハニートラップ事件」へと話を進めていく。佐藤もドジャン大使同様に、ソ連側スパイの罠に落ちた、あるいは落ちようとしていた、というわけである。そして柏崎は、佐藤は、ソ連のスパイか、ないしはダブルスパイの可能性が高い、故に佐藤の書くものや発言を信用してはならない、と結論付けようとしているかに読める。僕は、これを読みながら、ドイツか何処かに住んで、毎夜毎夜、「あれは中国の工作員?」「これも朝鮮の工作員?」「日本人、みな工作員?」と、ことあるごとに被害妄想と疑心暗鬼をつのらせて、怪しい「工作員妄想」に耽っているクラウン某嬢のことを連想したものである。「アンタ、頭は大丈夫かね?」と。それにしても面白いのは、柏崎が、佐藤優を批判するのに、佐藤優の獄中での読書リストを挙げているくだりだろう。柏崎は、こう書いている、「東京拘置所で512日もの拘留生活を送っていた間、どんな書物を読んでいたかによって彼の本来の姿を知ることが出来るのではないかと思う。何故なら、監獄のような極限状況に置かれた時にこそ、その人が真に読みたいと思う本やその人物の本当の志向性があらわれるからである。そこで『獄中記』(岩波書店)から、彼が獄中で読んだ書物をチェックしてみた。」と。そこでリストアップしたのが、浅田彰『構造と力』柄谷行人『戦前の思考』『ユーモアとしての唯物論』『マルクスその可能性の中心』宇野弘蔵広松渉、ユルゲン・ハーバーマースの著作、それに『スターリン全集』マルクスドイツ・イデオロギー』『毛沢東選集』ジョルジ・ルカーチ『歴史と階級意識レーニン帝国主義』……である。残念ながら保守系の書物はゼロだったようだ。そして、ここから少年探偵コナン的に、「彼の中に共産主義思想に深く共鳴する部分があることは間違いないであろう。」と推理する(笑)。また、柏崎は、この獄中読書リストの中に、インテリジェンス関係の文献が欠如していることを理由に、「情報の専門家」という佐藤優の「インテリジェンスの素養と手法」に疑問を投げつける。いずれにしろ、幼稚園レベルというか、戦前の特高レベルの「正論」のオンパレードである。開いた口が塞がらない。言うまでもなく、佐藤が、これらの左翼系文献を熱心に読んだのは、これらの文献が「読むに値する書物」だったからであり、佐藤が、これから何等かの仕事を、たとえば文筆家としての仕事をしていく上で、必要不可欠な「読んでおかなければならない文献」だったからだろう。柏崎などには、手に触るのも汚らわしい反動的な「悪書」だったとしても、である。その広範囲な読書体験は、最近の佐藤優の書くものの思想的な広さと深さに具体的に現れていると僕などは判断し、「佐藤優、恐るべし」と解釈するのだが、この柏崎某には逆に映るらしい。マルクスや左翼文献を読めば、即、マルクス主義者か共産主義者ということらしい。わかりやすい奴である。それにしても「柏崎竜一」とは何者だろう。筆者紹介の欄には、京大卒とか「日本政策センター」とか書いてあるだけで、年齢は不祥となっているが、実在する人物なのか(笑)。それとも誰かの偽名なのか。ヤフーやグーグルで検索にかけても出てこない名前だから、おそらく誰かの偽名だろう。別に誰でも良いが、こんな基本的な左翼文献もろくに読んでいないような匿名の「馬鹿」が、「情報研究家」と称して、天下の「諸君!」に正々堂々と「大論文」(笑)を発表できるとは、世も末である。巷では、今日あたりは、保守派を中心に、「石原都知事三選」に沸き立っているようだが、そんなことよりも何よりも、問題は、こんな共産党創価学会アジビラ・ライターのような「大馬鹿野郎」(笑)が、保守論壇内外にはびこり、大きなツラを晒して、特定の思想家や学者を暗闇から批判・罵倒しているという日本の思想的、学問的現状であろう。ちなみに、佐藤優が、保守論壇系の書物を1冊も読まなかったことは正解である。最近の保守論壇系の書物には、読むに値する本は、二、三の例外を除いて、1冊もない。「保守反動一筋40数年」の僕が(笑)、断言するのだから、たぶん、間違いないだろう。
(追記…岩田温氏のコメントによると、柏原氏は実在の人物だそうです。)